1月 07 2013
消滅時効中断の裁判例
すでに1月7日となってしまいましたが,皆様明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
さて,早速ですが,新年早々,消滅時効中断に関する新たな判決が出ましたのでアップいたします。とは言っても,もともと当然のこととして知られている内容なのですが,判決理由が結構充実していたためアップすることとしました。
まず,前提から説明いたします。
過払金に限らず,通常の債権(今回だと「お金を返せ」と言える権利)は,返済を請求できるときから10年経過すると,時効により消滅してしまいます(民法167条,166条)。
これは,権利があるにも関わらず10年もほったらかしにしてる人は法律は助けてあげないよ,というのが理由です(それ以外にもありますが省略します)。
とすると,10年経つ前に返済してもらわなければなりませんが,相手の事情によってはなかなか返してもらえないこともあるかと思います。そこで,法律では「時効の中断」といって,法定の手続をとることで,時効の進行をストップさせることができることとなっています(民法147条)。
この法定されている時効の中断事由の一つに「請求」というものがあります。これは単に電話等で請求することを意味するものではなく,訴訟等の裁判手続によって請求することを指しており,10年以内に裁判さえ起こしておけば,仮に裁判中に10年経過したとしても時効は完成しません。さらに,裁判によって勝訴判決が出た場合は,判決確定のときから更に10年経過しない限り時効によって消滅することはありませんし,判決を取ってから再度10年経過しそうであれば,もう一度訴訟等を行うことで時効を中断させることができます(民法174条の2)。
ということで,請求できるときから9年と364日しか経過していないようであれば訴訟を行うことで時効を中断させることができますが,現実問題としてすぐに訴訟手続を行うのが難しい場合もあります。そこで,法律は「催告」と言って,まさに電話による督促等,口頭でも書面でも構わないので,とりあえず10年経過前に何らかの請求をしておけば,時効の完成を6ヶ月延長することとしています(民法153条)。
では,この催告はどの程度債権が特定されていれば良いのでしょうか。
実際のところ,10年経過ギリギリであれば,今いくらになっているのかなど正確な金額はわからないケースは多いと思いますし,細かな点などは覚えていないと思います。
特に,過払金の場合は時効完成の数日前にご依頼いただいたとしても,取引履歴がお手元に無いようであれば,まずは取引履歴を業者から取り寄せなければなりませんので,請求しようにもいくら請求すれば良いのか分かりませんし,いつからいつまでの過払金を請求すれば良いのかも分かりません。
ということで,この点について詳細に理由が書かれたのが本判決となります。
ちなみに,下記の事例は,時効のスタートは平成13年12月5日に完済したとき(起算日は翌日の12月6日)なので平成23年12月5日までに訴訟提起をしなければなりませんが,取引履歴がありませんでしたので,平成23年12月2日に取引履歴の開示及び過払金がもしあったら払ってください,という記載を入れて請求し,平成24年1月19日に訴訟提起したという事案です。
→原審(瀬戸簡裁判決・PDF)
→控訴審(名古屋地裁判決・PDF)
これまでも,弁護士や司法書士が受任通知を送付しただけで,仮に「過払金を請求する」という記載が無くても黙示的に請求しているものとみなして時効の中断を認める判決はたくさんありましたし,実際に1審判決では,時効の部分はサラっと流しています。
一方,2審においては,詳細に検討され理由が記載されております。その内容をざっくり記載すると,
①催告は時効の完成を最大限6ヶ月先延ばしするに過ぎないものであるから,債権の内容を詳細に記載する必要はなく,どの債権か可能な限り特定されていれば足りる。
②本件では,書面名が「受任通知書兼過払金返還請求書」となっており,実際に受任通知の中に過払金が発生していればそのすべてを請求する旨の記載がある。
③受任通知の中に取引履歴の開示も求めている記載があるから,請求者としてはできる限り債権を特定したと言えるし,請求を受けた業者も,誰からの過払い請求か分かれば過払金がいくらなのかを特定することも可能である。
④よって,上記書面は「催告」に当たる。
というものです。
以上から,単に受任通知や取引履歴の開示を求める書面だけでも催告の効果はあるかと思いますが,より確かなものとするため,時効ギリギリの場合は,
①題名に「過払金返還請求」という文字を入れる。
②文中にすべての過払金の返還を求める文章を入れる。
という2点を満たしていれば,まず間違いなく「催告」として認めてもらえると思います。
なお,通知内容の証明及び到達日を確定するため,内容証明郵便(配達証明付)で送付するのは当然の前提です。
最後に,地裁判決の最後に,「差し支えにより署名押印することができない」との記載があります。これまで,「転補(転勤)により署名押印することができない」とか「退官により署名押印することができない」というのは見たことがありますが,「差し支え」というのは初めて見ました。ただ,署名押印されていない時点で何らかの「差し支え」があるのは明かであり,全然署名押印できない理由になっていないような気もしますが,どうやらこれでもいいんですね。年末の判決だったので,すでに裁判官は正月休みで旅行に行っていたのでしょうか。
という,裁判の本質とはまったく関係ないことに思いめぐらせてみた,新年最初のブログとなります。
こんな記事ばかりで申し訳ありませんが,本年もどうぞ宜しくお願いいたします。
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