9月 02 2008
命<お金?
「命」と「お金」のどちらが大事ですか?
そう聞かれた方のほぼ100パーセントの方が「命」とお答えになると思います。だって,どんなにお金があってもあの世までお金は持っていけませんからね。
ただ,「命」と「借金」となるとそうではないことも多分にあるようです。
現在,毎年約3万人もの方が自殺で亡くなっているそうです。そして,その自殺の原因としては,病気(うつ病)や失恋,仕事上の悩み・トラブル等,様々な理由がありますが,男性の中での全体の2番目の理由が「多重債務」です。なお,男性の1位は「病気の悩み(うつ病)」であり,女性においては,「多重債務」は5位にも入っていません。なぜ,女性では少なく男性に多いのかといえば,多重債務の原因の主要因である,ギャンブルや浪費をされる方は,得てして男性が多いということ,そして,男性の場合,自営業等の事業資金での借入れが多いことが挙げられます。また,1位の「病気の悩み(うつ病)」についても,借金が原因でうつ病になってしまう方も多いため,実際にはどちらが1位なのかわかりません。
正直なところ,1位の「病気の悩み」については,私は医者ではないため,その治療や解決方法については,コメントできる立場にも知識もありませんので,何とも申し上げられません。しかし,2位の多重債務については,解決できる手段が無数にあるため,残念というか無念でなりません。
非常に冷たいようですが,残念ながら「死」と「借金の解決」はイコールではありません。むしろ,場合によっては,残された家族に迷惑をかけることになってしまいます。
なぜなら,自殺の方法や場所にもよりますが,他人に迷惑をかける可能性が高いです。最近はあまり聞かなくなりましたが,硫化水素で自殺をするというのが流行りましたが,巻き添えで亡くなった方が多くいらっしゃいます。また,列車に飛び込んでしまった場合,多くの乗客に迷惑をかけることになってしまいます。そして,迷惑を被った方から残された家族に対して,法的には損害賠償請求をすることも可能であり,その賠償額は計り知れません。もちろん,そのような賠償請求を担保してくれる保険なんてありません。
また,借金自体についても,財産同様,相続の対象となりますので,結局はご家族が支払っていかなければなりません。
なお,残されたご家族が相続放棄をすれば,賠償請求や借金については支払義務はないことになります。しかし,相続放棄は借金のみならずその方の財産の一切合財も相続できないことになります。例えば,婚約したときの思い出のある時計だって相続できません。家族のために,と購入した自動車だって相続できません。
結局,死ぬことによって誰も得しないんです。
それに対し,借金の解決にはたくさんの方法があります。長いこと取引をされているようであれば,借金どころかお金が返ってくることだってありますし,どうがんばっても払うことができないようであれば自己破産をして免除してもらうことだってできます。
そして,自己破産をしても,ぶっちゃけそれほど多くのデメリットがあるわけではありません。一定期間借金ができなくなることや,特殊な職業に就いている方に限って言えば,一時その仕事を退職しなければならないことくらいです。そんなの死ぬことと比べるのもイヤになるくらい,月とすっぽんです。
失礼を承知で言えば,「犬死に」です。
どうですか?これでも借金で自殺しようと思いますか?
合理的に考えれば,多重債務を原因に自殺をしても意味が無いことはわかっていただけると思います。
それなのに,なぜ借金を原因とする自殺が多いのか。
これは完全なる私見ですが,次の二つだと思います。
一つ目は,「そもそも債務整理という制度を知らないか,誤解をされている」ということだと思います。近年は,たくさんの法律屋のホームページやグレーゾーン金利の報道等により,かなり広まっていると思いますが,今でもご相談に来られる方の多くの方が過払い(グレーゾーン金利)のことをご存じないですし,自己破産をすると,洋服やら生活用品やらに赤紙のようなものを貼り付けられるという想像をされている方もお見えになります。
これは完全に私たち法律屋や政府のアピール不足だと思います。もっと積極的に皆さんに伝えていかねばならないと思います。
そして二つ目は,「日本人固有の武士道の精神」にあると思います。
日本人は昔から,「責任を取るということは死を選ぶこと」という精神が根強くあると思います。少し話しはそれますが,世界が死刑廃止に動いている中,日本人は死刑賛成派が多数を占めます。これは,「死には死をもって償うべき」という精神から来ていると思います。
私は,「死をもって償う」という心情は,法律屋としてはまずいのかもしれませんが,率直な気持ちとしては理解できます。ですので,「債務整理という制度を知った上で,そしてご家族に迷惑をかけてしまう可能性があることを理解され,それでも責任を取って死を選ぶ」という方に対しては,かける言葉が見つかりません。
もし,唯一あるとすれば,
「命」と「お金」のどちらが大事ですか?
と質問するのが精一杯です。
このシンプルな質問に冷静になって答えていただけることを切に願うばかりの無力な男です。
現在,依頼者が「債務者のご両親」というご依頼があります。なぜ,ご本人ではなくご両親なのか。債務者ご本人は借金を苦に自ら命を絶ってしまったからです。私よりも何歳も若い方です。しかも,総額200万円にも満たない額です。引き直せば100万円程度です。なぜ,命を絶ったのかはご両親にもわかりません。いくらでも解決方法はあります。無念でなりません。ご相談の際,お母さんは涙を流していらっしゃいました。私も何
声をかければよいのかまったくわかりませんでした。ただただ,悲しかったです。
しかし,一つだけ,本当に一つだけ,救いがありました。
債務者ご本人にはお兄さんがおり,そのお兄さんも借金が原因で何年も行方不明になっていたそうです。ところが,ご本人が亡くなった当日に偶然お兄さんから電話があったそうです。そして,今回の弟さん(債務者ご本人)のことを聞いて,借金に対し正面から向き合い債務整理の手続をとることを決意されました。まさに,弟さんが命をかけてお兄さんに再起のチャンスをつかむように導いてくれたのだと思います。
上述のとおり,私は「死をもって償う」という考え方には反対はしません。しかし,それは国に助けを求めることを否定することではありません。
ベタな言葉ですが,
「たった一度の人生です。もっと楽しい,もっと幸せな,もっと愉快な,もっと素敵な未来がまっているかもしれません。死ぬことはいつだってできます。だからその前に,あなたのその未来にもう一度賭けてみませんか?」
※自殺の原因や順位等については,すべて「月報司法書士」8月号に拠ります。