相続に関すること

遺言の内容とは異なる内容での相続

遺言書を作成する場合、基本的にはできるだけ相続人間で揉め事が起こらないことを目的として作成することが多いかと思います。もちろん、遺言書を作成すれば必ず揉め事が起こらないというわけではないのですが、特に配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合は、兄弟姉妹には遺留分がないことから遺言書を作成しておくメリットは大きいと思います。
遺言書を作成し、遺言者が亡くなった場合はその遺言書に記載された内容に沿って相続が進んでいくわけですが、相続人によっては「そもそも自分は相続したくない」、「遺言の内容とは異なる内容で相続したい」、ということもあるかと思います。
今回は、遺言書はあるものの、遺言書に基づかない相続についてまとめたいと思います。

1. 遺産を相続しない方法

遺言書にて遺産を取得するとされている人の立場によって行う手続が変わってきます。

 

(1)相続人の場合

遺言書によって、例えば不動産を相続する旨の定めがあったとしても、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることでそもそも相続人ではなくなるため、不動産を相続しなくても良くなります。この場合、仮に遺言者に負債があったとしても、その負債を負うこともなくなります。

また、相続人に対して不動産など特定の財産を遺贈をすることもできますが、この場合は相続放棄ではなく他の相続人や遺言執行者に対して遺贈を放棄する旨の意思表示をすればよく、家庭裁判所で手続を行う必要はありません。なお、相続と異なり一部の財産のみ放棄するということも可能です。

 

(2)相続人以外の場合

相続人以外の方の場合は相続ではなく必ず遺贈になりますが、遺贈には特定遺贈包括遺贈の2種類があります。このうち、特定遺贈は上記と同様であり、相続人や遺言執行者に放棄する旨の意思表示をすれば足りますし、一部の遺贈のみ放棄することも可能です。一方、包括遺贈の場合は相続人と同一の権利義務を承継しています(民法第990条)ので、家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述を行う必要があります。

 

 

2. 遺言の内容とは異なる内容で遺産分割をする

財産が要らないという場合は、上記の方法で解決できますが、遺言に書かれている内容とは異なる内容で分けたいということもあるかと思います。

基本的には、遺言者の意思が最重要ではあるのですが、上記のとおり遺言書を作成する理由の多くは相続人間での紛争発生を防止するためであり、遺言書があることで紛争が生じるくらいであれば、遺言書の内容と異なる内容での遺産分割も認められるべきです。

そこで、下記の条件をすべて満たすことで遺言書の内容と異なる内容での遺産分割協議は可能とされております。

 

(1)遺言により遺産分割協議による分割が禁止されていないこと

遺言書の中に、一定期間遺産分割を禁止する旨を定めることができます(民法908条1項)ので、この定めがある場合は一定期間内は遺産分割を行うことができません。もっとも、遺言にこの定めが書かれていることはほとんどないかと思いますし、仮に定めがあったとしても最大で5年間ですので、時間が経過すればこの点はクリアできます。

 

(2)遺言書の内容と異なる内容で遺産分割をすることについて相続人全員が同意していること

相続人全員が遺言書の内容を理解しており、その内容とは異なる内容で遺産分割をすることについての同意が必要となります。仮に相続人の一人でも遺言書の内容を知らず、だまし討ち的に遺産分割協議が成立した場合、その遺産分割協議は有効なものとはなりません。

 

(3)相続人以外の利害関係人の承諾があること

具体的には、受遺者遺言執行者になります。

受遺者は、遺言によって財産をもらえることになっていたわけであり、それと異なる内容での遺産分割となると財産をもらえなくなるわけですから承諾を得るのは難しいかもしれません。

また、遺言執行者は遺言者の財産について管理処分権を有しておりますので、遺言執行者の承諾を得ずに相続人間で処分することができません。

 

なお、上記は公正証書遺言であるか自筆証書遺言であるかなど、遺言の形式による差はありません

 

 

3. 上記を満たさない場合に相続人の希望の内容で分割する方法

条件を満たさない場合は、いったん遺言に基づいて財産を承継した後に改めて相続人間全員で遺産分割協議を行ってやり直したり、遺産分割ではなく贈与や売買で財産を移転することが考えられます。

 

(1)再度の遺産分割

遺言による手続が終わった後でも相続人全員の合意があれば遺産分割協議をやり直すこと自体は可能です。しかし、この場合はいったん相続が終わった後に財産が移転することになるため、税務上は贈与と認定される可能性が高いと思われます。また、不動産については改めて登記手続が必要となりますので、余分な費用がかかります。

 

(2)贈与や売買で財産を移転

これは相続とは無関係な手続となりますので、その都度、贈与税や譲渡所得税の納税や登記手続等が別途必要になります。また、こちらは遺産分割ではありませんので、相続人全員の合意が無くても当事者のみで進めることが可能です。

 

 

 

 

以上が遺言書の内容とは異なる相続となります。2の条件を満たさないと余分な費用が多くかかってしまいますので、仮に相続人全員の合意ができてしまうくらい遺言の内容が相続人の希望と異なるのであれば、遺言書を作成する時点で話し合いを行い、遺言者及び相続人が納得できるような内容で作成できれば良いのですが実際は難しいですね・・・