建物買取請求権に関する最高裁判決
先日(令和8年8月28日)、建物買取請求に関する最高裁判決が出ました。建物買取請求権自体は賃貸借契約に関するものですが、本件においては相続が関係しており、また私自身も似たようなお話しを聞くことがあるため、まとめておきたいと思います。

1 前提知識
(1)敷地権(土地利用権)
マンションを所有する場合、多くの方は当該専有部分(お部屋部分)を購入されていると思われている方が多いと思いますが、実際には専有部分を所有するためには土地を利用する権利も取得することが必要です。
多くのケースでは土地の所有権(実際には共有持分)であることが多いですが、地上権や賃借権ということもあります。また、専有部分の所有権と土地利用権は別の権利となりますが、登記簿上は、専有部分と土地利用権が一体化していていることがあり、その場合は、その土地利用権のことを「敷地権」といいます。
(2)建物買取請求権
マンションだと少し分かりにくいのですが、土地を借りてその上に建物を建築されるということがあります。そのため、建物所有を目的とした賃借権は最低でも30年以上の契約期間が必要であり、通常の賃借権と異なり「借地権」と呼ばれています。ただ、建物所有者において、転勤などの理由で建物を手放さなければならない場合もあります。この場合において、建物自体は建物所有者が自由に売却することができますが、土地の賃貸借契約を新所有者が引き継ぐためには土地の貸主の承諾が必要とされています。これは、上記のとおり借地権は最低でも30年もの長い契約になるため、賃借人が誰であるかは貸主にとって重要な要素だからです。
ところが、仮に貸主が承諾しない場合、そのような状態で建物を購入してくれる人はいませんので、建物の売主さんは今後も賃料を支払い続けるか、建物を解体しなければならないことになり、仮に建物を解体するとなると社会経済上の損失も大きいです。そこで、土地の貸主が賃借人が変更することに承諾しない場合は、賃借人や建物を購入した新所有者が土地の貸主に対して建物を時価で買い取ることを請求することができます。これを「建物買取請求権」といいます。
(3)共有持分買取業者
相続などで不動産を共有で相続したものの相続人間で話し合いがまとまらない場合などに、相続人など共有者の一部から共有持分を買い取る不動産業者です。
仮に1000万円の価値がある不動産をAさんとBさんが1/2ずつ相続した場合において、Aさんから共有持分を買い取る場合500万円ということはなく、かなり格安の金額で買い取ることになります。その後、買取業者はBさんを相手として共有物分割訴訟などを行い、Bさんに高値で買い取らせたりして利益を上げることになります。
2 今回の事案
(1)相続
敷地権が賃借権であるマンションの部屋の所有者が亡くなりました。その方の相続人は子ども4名であり、不動産は各1/4ずつ相続されました。
(2)共有持分買取業者への売却
共有者4名のうち3名が共有持分を共有持分買取業者に売却しました。これにより、1/4はもともとの相続人1名が、残る3/4は共有持分買取業者が保有していることになります。
(3)貸主の承諾
敷地権が賃借権であるため、専有部分を譲渡するためには賃借人が変わることに関する土地の貸主の承諾が必要となりますが、今回の事案においては共有持分買取業者への譲渡について土地の貸主は承諾しませんでした。
(4)建物買取請求権の行使
そこで、共有持分買取業者は土地の貸主に対して、共有持分の3/4について時価で買い取るよう請求しました。
(5)第1審と控訴審判決
いずれも共有持分買取業者の請求を認めなかったため、共有持分買取業者が最高裁に上告しました。
3 最高裁判決
→ 最高裁サイト
今回の最高裁判決の重要部分は下記のとおりです。
賃借権の目的である土地の上にある建物の持分の譲渡の場合において、建物の持分について建物買取請求権が認められるとすると、一般に、借地権設定者は、その行使によって、当該建物の共有関係に巻き込まれることになる。その結果、借地権設定者は、自らの意思によることなく、当該持分の時価相当額の負担を余儀なくされながら、建物の処分行為を自由にすることはできず、当該建物の共有者として他の共有者との調整を図りつつこれを使用又は収益することができるにとどまることになるのであるから、建物所有権の全部につき建物買取請求権が行使された場合に比して、重大な不利益を被るおそれがあるということができる。また、建物の持分に関する投下資本の回収は、共有物分割請求をすることによって図り得ることからすると、建物所有権の全部の譲渡の場合に比して、建物買取請求権を認める必要性も乏しいというべきである。したがって、賃借権の目的である土地の上にある建物の持分について、建物買取請求権は成立しないと解するのが相当である。
簡単にまとめると
①土地の貸主は、自分がまったく関係ないところで共有物の紛争に巻き込まれる。
②勝手に巻き込まれたのに、自由に使ったり売却することもできず、所有権全部を強制的に買わされたときと違って不利益が大きい。
③共有持分買取業者は1/4を持っている他の共有者との間で共有持分の分割について協議をすれば良いので、土地の貸主に請求しなくても解決できる。
ということで、共有持分買取業者の建物買取請求権を認めませんでした。
4 共有持分買取業者への売却は紛争の火種
上記の件もそうですが、共有持分買取業者へ売却するのは、通常は相続人間で協議が成立せず、いろいろと面倒になってしまって安くても良いから共有持分を第三者に買ってもらって共有関係から離脱しようという事態が起きた時です。確かに売却した人は離脱することができますが、足元を見られていますのでかなりの安値で売却していると思います。
また、売却しなかった人は共有持分買取業者との間で紛争を抱えることになり、時間も費用も精神的なストレスも抱えることになり不利益しかありません。
つまり、良い想いをするのは共有持分買取業者だけであって、売却した人もしなかった人も良い解決にはなっていないことが多いです。
もし誰か一人が取得することでもめているのであれば難しいかもしれませんが、売却しても良いようであれば裁判所の競売で売却し、その売却代金を持分に応じてみんなで分けるということも可能です。あくまで私が見聞きする限りとはなりますが、共有持分買取業者が関与して皆さんが幸せになるケースはあまりないと思いますので、できる限りその他の方法で解決できればと思います。
以上、本日の最高裁判決についてでした。