司法書士業務賠償責任保険
先日,農地の時効取得に関する記事を書きましたが,このときの不動産の価格は「数百円」という不動産においては珍しい事件でした。
というのもあれば,先日は3億円弱の不動産の登記手続も行いました。
このように,司法書士は不動産という高価な財産を扱う関係上,比較的頻繁に「億」という金額の財産に関与することになりますが,依頼される方からすると,万が一「億」の財産の手続に司法書士が失敗した場合にどうなるのか気になるところではないかと思います。
この点,実は司法書士専用の保険があり,まさに自動車保険のように司法書士が業務に関する事故を起こしてしまった場合には保険会社から賠償してもらうことができるようになっています。
強制加入保険
全国の司法書士会を調べた訳ではありませんが,恐らくすべての司法書士は自動的に1000万円までの賠償保険に加入しています。自動車でいうところの自賠責保険のようなものですね。
ただ,最初に書いたとおり,不動産を扱う関係上,1000万円では足りないというケースの方が多いと思いますので多くの司法書士は別途保険に加入しています。自動車でいうところの任意保険ですね。
司法書士業務賠償責任保険
私が知る限りでは,業務賠償責任保険を取り扱っている保険会社は2社しか無かったように思います。両方とも日本有数の大手の保険会社です。
その中で,加入する保険の保障額を司法書士が決める訳ですが,当事務所では最大の金額である約6億円の保険に加入しています。これにより,ほぼすべての案件について,万が一私が事故を起こしてしまったとしても依頼者の方に経済的な意味でのご迷惑をお掛けすることは無いと思います。
ちなみに,当事務所では過去に1事件で約27億円というものがありましたので,この時事故を起こしていたら今頃私は司法書士をやっていないと思います・・・。
犯罪行為には適用されない
ところで,先日東京の司法書士が後見人となっている事件で被後見人の方の財産を横領するという事件が起きてしまいました。
私もリーガルサポートという後見業務を扱う団体に所属しており,家裁より依頼を受けて数人の成年後見人等に就任しておりますので,非常に残念であるとともに申し訳なく思います。
このような後見業務も司法書士業務の一環ですので,業務に関する事故を起こしてしまった場合は,保険から賠償されることになります。
しかし,保険の支払いには例外規定があり,その中に「被保険者(司法書士)が,法令に違反することまたは他人に損害を与えるべきことを認識していた行為」,「被保険者による犯罪行為」と書かれています。つまり,司法書士が被後見人の方の財産を横領したことによって発生した損害には残念ながら保険の適用はないと思われます。
この点,不動産登記においても,いわゆる「地面師」と結託して司法書士が登記をした場合(司法書士が地面師に騙されたのではなく,司法書士も地面師の仲間だった場合)は,「詐欺罪」や「公正証書原本不実記録罪」という犯罪行為ですので,やはり賠償はされないと思います。
残念ながら司法書士に限らず弁護士や行政書士が犯罪行為(特に後見人としての横領)がたびたび起こってしまって報道されておりますが,業界全体として再発防止に努めなければならないですね。
正直なところ,司法書士自身が犯罪行為を行うというのは全体から見ると極々例外的なことですので実際にトラブルに巻き込まれてしまう可能性は少ないと思いますが,業務におけるミスによって依頼者の方に損害を与えてしまうということは十分あり得ることですので,少なくとも大きな取引を依頼する際は保険加入の有無を尋ねてみると安心できるかもしれませんね。
なお,念のため申し上げると,私は今までに事故を起こして保険のお世話になったことはありませんのでご安心ください(笑)