遺言の撤回
先日,遺言の撤回に関する最高裁判決がありました。ニュースでも大きく扱われていましたので,ご存知の方も多いのではないかと思います。
→全体に斜線引かれた遺言書は無効…最高裁(平成27年11月21日読売オンライン)
ということで,今回は遺言の「撤回」,「訂正」についてまとめてみたいと思います。
遺言の撤回は自由
一度遺言書を作った後,いつでもその遺言を撤回することができます。
撤回には「全部撤回」と「一部撤回」があり,全部撤回は遺言書を書かなかったことと同じですので,遺言書が存在しない状態に戻ることになり,一部撤回だと撤回しなかった部分だけ有効なままの遺言書が存在することになります。この撤回をする権利は奪われることはありませんので,気が向いた時にいつでも撤回できます。
この「撤回」をする方法としていくつかありますが,その中でも一番簡単なのは遺言書の破棄です(民法1024条)。
破って捨ててしまったら,遺言者の意思としては,当然遺言の効力を失わせると考えているはずですので,故意の破棄=撤回となります。
それ以外にも撤回の方法があり,例えば,別の遺言書の中で,「平成○年○月○日の遺言について撤回する」などと撤回文を記載することもあります。
また,しっかり「撤回する」と書かなくても矛盾した行為がある場合は,矛盾する限度で撤回したことになります。例えば,「妻Aに対して甲不動産を相続させる」という遺言を書いていたとしても,遺言者が生前に甲不動産を第三者に売却していた場合は,遺言の内容と矛盾する行為であるため「妻Aに対して甲不動産を相続させる」という部分については撤回したことになります。同じように,従前の遺言書と矛盾した内容で新しい遺言書を作成した場合も前の遺言は撤回したことになります。なお,矛盾しない部分については撤回とはなりませんので,前の遺言がすべて無効になるわけではありません。
さらに,遺言の撤回を遺言で行う場合,その遺言書の形式に制限はありません。つまり,前の遺言書が公正証書遺言だったものを自筆証書遺言で撤回することができますし,逆もできます。
遺言書の訂正は面倒
自筆証書遺言を作成中に誤字や脱字等などで訂正をする場合,実はかなり面倒です。
具体的には,
①遺言書の訂正する部分に加筆する場合,削除や訂正前の原文が判読できるように二本線で消して正しい文言を挿入します。
②変更した部分に遺言書に押印した印鑑で捺印します。
という3つのステップを踏まなければなりません。
なぜこのような面倒な方式が取られているかというと,相続人などによる変造を防ぐためだと言われています。ですので,この方式を取らないと訂正が無効となってしまい,訂正が無かったことになります。私としては,大変手間ではありますが,誤解や変造の疑念などを防ぐ意味でも,訂正をするくらいであれば改めて作成した方が確実ではないかと思います。
最高裁判決は訂正ではなく撤回
最高裁判決の事例は,遺言書の全体に赤いペンで斜線が引いてあるとのことです。
とりあえず,これによって遺言書の訂正ということはあり得ません。上記のとおり,遺言書の訂正方法は厳格に定められていますので,赤い斜線を引くだけでは絶対に訂正の効力はありません。
とすると,あとは遺言書を全体として撤回(破棄)したことになるかどうかです。
この点,地裁,高裁は斜線を引いただけだと,「読める部分については撤回ではない」と判示しましたが,最高裁は「読める部分も含めて全部撤回」としました。まぁ,世間一般的な考えだと,全体に斜線は全部撤回を意味するというのが大多数だと思われますので,とても常識的な判決ではないかと思います。
とはいえ,遺言書を書いたお父さんが,訂正なら訂正,撤回なら撤回としっかりしておいてくれれば,子ども達が最高裁まで争うことは無かったわけです。お父さんが亡くなったのが平成14年ですから,解決するまでに13年の月日が流れています。せっかくのトラブルを防ぐための遺言書が逆にトラブルの種になってしまうというのは本末転倒ですので,可能な限りトラブルが起こらない遺言書を作成された方が良いと思いますし,お困りの際はお問い合わせいただければと思います。