認知症の方が所有されている不動産の贈与・売買
本日,日経新聞に成年後見に関する記事がありました。
以下,日経新聞(http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG27H7U_Y6A420C1000000/)からの引用です。
ざっくりと内容を説明すると,現在は成年後見人として選任されるのは,約7割が第三者で親族が後見人になるのは残りの3割となっているそうです。また,第三者たる後見人のうち一番多い職業は司法書士となっており,弁護士と司法書士と合わせて5割になります。
現在,私も数名の方の成年後見人や成年後見監督人に就任しており,その中で不動産について扱うことがたびたびあります。また,先天性の障害により比較的若い方が成年後見制度を利用されることもありますが,大多数は認知症等による高齢者の方になります。
ということで,今回は認知症等に罹患されている方の不動産の贈与や売買等についてまとめてみたいと思います。
意思能力があればすべて自由です
一般論として,ご自身で所有されている不動産を売却したり,贈与することは基本的には自由です(農地等については一定の制限があります)。認知症と一言で言っても,軽度の方から重度の方までいらっしゃるわけですから,例え,認知症の方であっても,しっかりと売却や贈与について理解されていれば問題なく売却や贈与をすることは可能です。
この「売却や贈与について理解する」という能力のことを意思能力と呼び,意思能力がない方が契約等した場合は,法律上の規定はありませんが当然に無効ということになっています。
ただし,「意思能力」というものは目に見えるものではありませんので,その判断はなかなか難しいものがあり,時には親族同士で揉め事に発展することもあります。
意思能力に不安がある場合
不動産の贈与や売却に関する登記をする際,多くのケースで司法書士が関与します。登記申請についてご依頼を受ける際に,司法書士は必ず所有者の方の意思確認を行いますが,もしご本人の意思能力が低下しており,贈与や売却についてご理解いただけないような状況であると判断すると登記申請はできなくなります。
私は,過去に意思能力が無いとして売買手続を進めなかったことは何度もありますし,その逆もありますが,やはり進めないという判断をして皆さんに告げるときには気が重くなります・・・。
判断するための方法として,後見等でも用いられる長谷川式認知症スケール等もありますが,後見の申立てをするわけではないので,私はより具体的な方法で意思能力の確認をしています。売買であれば売買代金や売買の相手方の確認,贈与であれば相手方の確認に加えて,その方との関係性,そもそもの不動産の取得経緯などを確認します。また,わざと売買等の不動産ではない別の不動産の写真や登記事項証明書をお見せして「この不動産を売買(贈与)されるんですよね?」など確認して,訂正されるかどうかなども行っています。
とはいえ,単なる勘違いで間違えるということもありますので,結局は総合的に判断し,司法書士が責任を持つしかありません。
意思能力が無いと判断した場合
意思能力があると判断できるようであれば,通常の売買ですので特に問題はありません。
しかし,意思能力がないと判断される場合は,売買等を諦めるか,成年後見制度の利用を考えなければなりません。もっとも,成年後見制度を利用すれば必ず売却できるかというとそうではありません。
成年後見制度を細かく分けると,(狭義の)成年後見,保佐,補助と3つの類型があります。いずれも,成年後見人等の保護者が選任され,ご本人に代わって契約をしたり,ご本人の行う契約等に同意することによって有効な契約をすることができます。
もっとも,保護者が勝手に契約等ができるわけではなく,あくまでご本人のためになる行為でなければ代理等を行うことはできません。
例えば,特にお金に困っていないのにご本人所有の不動産を売却することは問題になる可能性ありますし,ましてや贈与などしてしまったら問題になる可能性が極めて高いです。さらに,不動産の中でも「居住用」と判断されるような不動産だと,家庭裁判所の許可が必要になってきますので,ますます売却は難しくなります。
売却すべき事情がある場合の手続
ご本人さんが老人ホームへの入所等で資金が必要である等の理由により,成年後見人等が代理人となって売却する場合,以下のようになります。
【居住用不動産ではない場合】
基本的には通常の売買と同じ書類が必要となりますが,売主さん側の必要書類としては,成年後見人の印鑑証明書+実印,成年後見の登記事項証明書,権利証が必要となり,ご本人さんの印鑑証明書等は不要になります(そもそも成年後見が開始されると印鑑登録ができませんし,すでに登録されている印鑑は自動的に廃止されます。)。
【居住用不動産の場合】
売主さん側の書類としては,上記同様,成年後見人の印鑑証明書等に加えて裁判所の許可書が必要になります。また,重要な点としては,裁判所の許可書があるため,権利証は不要となります。
なお,「売却すべき事情がある場合」としており,贈与のことは触れておりません。これは,上記の通り成年後見において贈与が正当化される事案は極めて少ないと思われるためです。したがって,意思能力があるときに贈与をすることは問題ありませんが,意思能力がないと判断される場合は,贈与をすることはまず不可能だと思われます。
※平成29年5月追記
「贈与をすることはまず不可能だと思われます」と記載しましたが,先日,成年後見人として不動産の贈与を行いました。居住用不動産ではありませんでしたので裁判所の許可は不要でしたが,事前に裁判所と打ち合わせをしたうえで贈与をしております。
この事例は,不動産を保有し続けることがご本人の資産を保全することになるどころか大きなマイナスになるような状況であり,かつ,売却することが事実上不可能という物件だったため,例外的に贈与が認められたものです。
したがって,相続対策などご本人のためにならない贈与は,やはり不可能だと思います。
当事務所では,不動産に関することに限らず,成年後見に関する業務も行っておりますので,お気軽にお問い合わせいただければと思います。