失くなった・間違った戸籍
相続登記を行う際,必ず亡くなった方(被相続人)の出生から亡くなるまでの全戸籍・除籍謄本を取得します。これにより,被相続人の身分関係のすべてがわかり,誰が相続人であるかを確定することができます。
出生からとなると,被相続人によっては大正や明治の生まれの方もいらっしゃいますので,60年,70年前は当たり前,場合によっては100年以上前の戸籍謄本まで調査する必要がありますが,我が国は,昭和20年代に日本各地に爆弾を落とされた過去がありますので,その際に戸籍等が燃えてしまっているということがあります。とすると,調べたくても調べられない事態が生じてしまうことが結構あります。また,以前は除籍謄本の保存期間が80年と定められていたため,保存期間の経過により廃棄されてしまい除籍謄本が出ないということもあります(現在は150年になっています。)。今回はこのような戸籍が出てこないまたは戸籍が間違っているという点についてまとめてみたいと思います。
戦火による焼失や保存期間経過による廃棄
戸籍が燃えてしまって存在しない場合や廃棄されてしまっている場合,役所からは焼失または廃棄した旨の証明書を発行してもらうことができます。
このような場合は,相続人全員が「他に相続人はいません」という旨の証明書(印鑑証明書付)を作成すれば登記申請は通ることが多いです。また,独立した証明書ではなく,遺産分割協議書の中に「他に相続人はいません。」ということが記載してあっても大丈夫です。ただし,前後の戸籍の状況によっては他の証明書を求められることがあります。その時に,使われることがあるのが「過去帳」というものです。過去帳というのはお寺にある帳簿で,亡くなった方の出生日や死亡日,氏名等が書いてあるもので,相続登記の際のいち資料として用いられることがあります。
戸籍の内容が誤っている場合
戸籍への記載は人が行うものですが,役所の人が誤って記載してしまうことがあります。たとえば,お名前の文字が誤っていたり,本籍地の番地が違っていたりします。
基本的に,明らかな誤記の場合で,その方がご存命であれば役所に言うことで直してもらえることが多いですし,亡くなっていても相続人から言ってもらえれば概ね直してもらえます(役所が法務局から許可を得て直します。)。
しかし,届出人の方が誤った申請をしてしまった場合はそういうわけにはいかず,家庭裁判所に戸籍訂正許可の申立てをしなければなりません。
裁判所の記載例では,三男であるにも関わらず二男と記載してしまった場合が掲載されていますが,それ以外にも氏名の誤記なども考えられます。ちなみに,誤記ではなく氏名の変更の場合はやむを得ない事情や変更しないと社会生活に支障をきたす事情などがないと認められません。
先日,相続登記の関係で除籍謄本を取得したところ,被相続人は次男であるにもかかわらず,出生時の除籍謄本には長男との記載がされていました。
この除籍謄本をよく見ると,やはり戦火によって焼失してしまったため,戦争が終わってから20年程度経ってから改めて届け出たことによって複製されたものでしたが,その届出をされた際に誤って次男の記載を長男としてしまったようです。
この役所では同じようなことが多々あるようで,相続登記に関しては,長男や次男の記載はあまり影響はないものの,中には前妻の子どもだったはずが,後妻の子どもとして複製されたものもあるようです。もし,そのような戸籍になっている相続関係が大きくことなりますので,この相続手続は大変だと思います・・・。
話を戻して,長男・次男の記載について戸籍訂正の申し立てをすることも考えられますが,当然費用や時間がかかりますし,相続的にはあまり影響がないと考えられるため,念のため法務局に確認すると,他の本籍地・生年月日・父母の記載により同一性はわかるので特に訂正等は不要との回答でした。これにより,特に問題なく相続登記が完了いたしました。
日常生活において,戸籍謄本を見る機会というのはそれほど多くないと思います。役所での手続で必要になるのは結婚や離婚のとき,またはパスポートの申請をするときくらいでしょうか。あとは,大体は相続の時だと思います。ただ,相続の時になって誤りが見つかると大変ですので,長年戸籍謄本を取得されていないようであれば,念のために一度取ってみるのも良いのではないでしょうか。