遺贈の放棄
被相続人が亡くなった場合,相続人は被相続人の財産の一切合財を相続することになりますが,この「財産」には,不動産や預金等のプラスの財産ではなく,借金や保証債務などのマイナスの財産も相続することになります。ですので,プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は,相続放棄をすることでプラスの財産が相続できなくなるけど,借金も相続しないで済むということが可能です。
ところで,相続人ではないけど,被相続人が亡くなったことにより財産をもらえる方がいます。
例えば,遺言で財産をあげるとされている方(受遺者),亡くなる前に死因贈与契約をした方(受贈者),亡くなった方と財産を共有しており,亡くなった方に相続人がいない場合の共有者(民法255条),亡くなった方に相続人がいない場合の特別縁故者(民法958条の3)などです。
今回は,上記のうち,受遺者の放棄についてまとめてみたいと思います。
特定遺贈と包括遺贈
遺贈というのは,遺言者の死亡を契機として,特定の方に対して無償で被相続人の財産を譲渡することであり,「遺言者の死亡」と「遺言書に記載する」ことによって効力が生じます。
この遺贈には大きく分けて2種類あり,特定の財産(例えば,A市の不動産,B銀行の預金など)を特定の方に遺贈することを特定遺贈といい,割合的な遺贈(例えば,遺言者の財産の半分をAさんに遺贈する,遺言者の財産の全部をBさんに遺贈する,など)のように,具体的に財産を特定せず,財産の割合だけ定めて特定の方に遺贈することを包括遺贈といいます。
なお,遺贈と似たような制度として死因贈与というものがありますが,死因贈与は契約であるため死因贈与契約をするためには財産をもらう方の承諾が必要となりますが,遺贈の場合は受遺者の承諾なく一方的に遺言者が譲渡することを決めることができます。とすると,遺贈の場合は,遺贈を受ける方(受遺者)の意思が反映されていませんので,遺贈の放棄ということが問題となります。
特定遺贈の放棄
特定遺贈の放棄については,いつでもできるとされています(民法986条)。また,方式については特に定められていません。ですので,とある土地の遺贈を受けたとしても,遺言者の相続人や遺言執行者に対して,いつでも良いので遺贈を放棄する旨の意思表示をすればそれで完了となります。ただし,相続人から遺贈を承認するのか放棄するのか催告を受けた場合は,相当期間内に回答しないと承認されたものとみなされ,以降は放棄することができなくなります。
包括遺贈の放棄
包括遺贈は,民法990条に「包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有する」と規定されており,財産関係については相続人とほぼ同じ扱いになります。
とすると,遺言者に負債がある場合は,包括受遺者は債務も承継することになるため,債権者保護の観点から遺贈の放棄は相続放棄と同様に期間制限(自分が受遺者であることを知ってから3か月以内)があり,しかも家庭裁判所に対して遺贈の放棄の申述をしなければなりません。
なお,遺贈は相続人に対しても行うことができますので,包括遺贈を受けた相続人が一切の相続を放棄する場合は,遺贈の放棄に加えて相続放棄の手続も必要となります。
したがって,相続人ではない人でも遺言書によって債務を負ってしまう可能性がありますので,ご自身を受遺者とする遺言書が出てきた場合には,お近くの専門家にご相談いただいた方が良いかと思います。