されど住所変更登記
登記簿に登記されている所有者の方の住所が現住所と異なる場合,何かの登記申請を行う前に必ず住所変更登記をしなければなりません。
例えば,抵当権抹消登記のご依頼をお受けしたときに,所有者の方のご住所が「名古屋市名東区」になっているが,現在のお住まいが「長久手市」の場合は,名東区から長久手市に住所が変わった旨の登記申請を1件目に申請し,2件目に抵当権抹消登記を申請することになります。
この住所変更登記ですが,単に住所が変わっているだけであり,住民票などで住所移転していることはわかるため,司法書士的には比較的簡単な部類の登記となるのですが,実は奥が深く,悪戦苦闘することがあります。
また,悪戦苦闘するケースの場合は,その分依頼者の方の費用も余分にかかることとなりますので,今後,依頼者の方に説明させていただく際にも使えるよう,住所変更登記についてまとめておきたいと思います。
オーソドックスなケース
(1)転居前の住所が登記されている場合
名東区から長久手市に転居した場合,長久手市の住民票を取得すると「前住所」の欄に名東区の住所が記載されていますので,登記簿に名東区の住所が登記されているようであれば,長久手市の住民票があれば登記申請は通ります。
(2)何度か転居している場合
最新の住民票を取得しても,「前住所」の欄には直近の住所しか記載されていないため,これでは足りないことから,その前の住民票も取得する必要があります。
また,本籍地のある役所において,「戸籍の付票」を取得することでその本籍地に置いてからの転居の履歴の証明書を得ることができますので,「何度も転居はしているが本籍地はずっと同じ」という場合は戸籍の付票ですべて解決することが多いです。
(3)地名変更等による場合
当事務所の「長久手市杁ケ池106番地2」は数年前まで「愛知郡長久手町杁ケ池106番地2」でしたが,長久手町が長久手市になったという「市制施行」により住所が変わっています。また,「区画整理」により地名が変わることもあります。例えば,長久手市内にあった「根嶽」という地名は3年前に区画整理によって「市が洞」という地名に変わりました。
さらに,名古屋市中心部などおいては,「○○番地」という住所が「住居表示実施」により「○番○号」という住所に変わっています。
このように,本人の意思に関係なくされた変更の場合,登記申請をする際の登録免許税は無料となっており,地名変更等の証明書の発行も無料となります。もっとも,登記申請を司法書士に依頼した場合の費用はかかってしまいます。
悪戦苦闘するケース
(1)住所がつながらない
転居した場合,新住所に異動した後は,旧住所にあった住民票は除票となり,5年経過によって廃棄されてしまいます。したがって,転居を繰り返していらっしゃる場合は,除票の保存期間の経過により,住所の履歴を証明できないことがあります。この点,除票が取得できなくても,「戸籍の付票」で住所の履歴を証明することができる場合がありますが,除籍(改正原戸籍)となった後の付票も除票同様5年の経過により廃棄されてしまうため,住所と本籍地を同時に変更されている場合は,除籍の付票によっても住所の履歴の証明ができないことになります。
このような場合,最終的には各法務局の判断とはなりますが,一般的には下記の書類を添付することで登記申請が通ることになります(ただし,必ずしもすべて必要となるものではありません。)。
①不在住証明書
→登記簿の住所地に住所がないことの消極的な証明
②不在籍証明書
→登記簿の住所地に本籍がないことの消極的な証明
③権利証
→不動産の所有者であることを強く推定することができる書類
④申述書(印鑑証明書付)
→「除票等の保管期間経過により証明することはできないものの,このような経過で住所移転をしました。」ということをご自身で証明するもので,実印と印鑑証明書が必要となります。
⑤固定資産税の納税通知書(納税証明書)
→不動産の所在と所有者の新住所が記載されている
(2)住所移転などはしていないが,登記簿に記載された住所が間違っている
登記簿に記載された住所が間違っている場合は,所有者がかかわる登記は何も申請することができないので,前提として正しい住所に直す必要があります。
登記簿に記載された住所が間違っている原因として大きく分けて2つのパターンがあり,1つ目は法務局が登記または移記する時に間違えた場合,2つ目は申請した本人または司法書士が申請書に誤った住所を書いていた場合です。
まず,前者の方は簡単です。法務局のミスなので,直してほしい旨を伝えれば直してもらえます。特段申請書などはありませんし,費用もかかりません。概ね1週間程度で直ります。もっとも,法務局のミスかどうかを確認するためには,閉鎖登記簿や申請書を確認する必要があります。
一方,申請者側が間違えてしまった場合は,「住所の更正登記」を申請して正しい住所にしなければなりません。その場合,正しい住民票のみで登記申請が通ることもありますが,上記のとおりの不在住証明書等を要求されることもあります。
住所変更登記に関する細かい話
①住所にマンションやアパートを登記するか否かは自由ですが,マンション名を登記した場合に同じマンション内で部屋を変わったときは住所変更登記が必要になります。
②住所移転→町名変更の場合は登録免許税は不要となりますが,町名変更→住所移転の場合は登録免許税は必要となります。
③「○番屋敷(○番戸,○番邸)」から「○番地」となった場合は変更登記が必要です。
④当事務所の変更のように,町→市への変更だけで町名(杁ケ池)や地番(106番地2)等に変更がない場合は,そもそも変更登記の申請はしなくても良いことになっています。また,住所に「字」が追記された場合,住所変更登記は不要であり,あえて住所変更登記をする場合も登録免許税は無料です。逆に「字」が無くなった場合も同様です。
⑤何度住所変更をされていても,最新の住所のみを登記すればよく,登記費用も1回分しかかかりません。
⑥申し出や役所の職権により,住民票が訂正された場合は,錯誤による更正登記が必要です。なお,職権による変更でも登録免許税がかかってしまいます。
⑦何度も転居を繰り返し,結果的に登記簿に記載されている住所に戻ってきた場合は,住所変更登記は不要です。