遺言を書いた人よりも先に相続予定者が死んでしまった場合
人が亡くなった場合,亡くなった方(被相続人)の財産及び負債のすべてを相続人が相続することとなります。
相続人となる立場の人は,配偶者(夫または妻)や子ども等,民法に規定されています(民法889条,890条)。なお,子どもが相続人の場合,子どもが先に亡くなっていた場合にはその子ども(つまり孫)が相続することができ,これを代襲相続と言います。
さらに,民法上,配偶者や子ども等の立場によって1/2や1/3といった法定相続分という相続できる割合が定められています(民法900条)。ただし,この法定相続分というのは,「何の取り決めも無かった場合にはこの割合でよろしく」と定めただけなので,被相続人が遺言によって長男には半分,長女には1/3,次男に1/6というように被相続人の自由な割合を決めることもできます(民法902条)し,相続人同士で集まって,遺産分割協議を開き,全員の同意の下,法定相続分とは異なる内容で遺産を分けることも許されています(民法907条)。
仮に,被相続人が長男の相続分を1/1,つまり遺産のすべてを長男に相続させるという遺言を書いたとします。被相続人の子どもとして,長男以外に長女や次男がいたとしてもすべてを長男が相続すると遺言に書いてあるため,他の相続人である長女や次男は相続することができません(ただし,長女や次男には遺留分がありますが今回は無視します)。
ところが,被相続人が亡くなる前に長男が亡くなった場合,この遺言はどうなるのでしょうか。
1つの考え方としては,長男が亡くなってしまっている以上,被相続人の書いた遺言は無効であり,長男の相続人である子ども(代襲相続人),長女,次男の3人で分けるという考え方。もう一つの考え方は,遺言は有効であり,長男の子ども,つまり被相続人の孫がすべてを代襲相続するという考え方があります。
この点について,本日最高裁判決があり,最高裁は,最初の考え方である「遺言は無効である」という判決を出しました。
→記事
したがって,遺言を書く場合に,長男に遺産を相続させたいが,仮に長男が先に亡くなった場合は長男の子どもに相続(代襲相続)させたいという場合には,「全財産を長男である○○に相続させる。ただし,遺言者より先に長男が死亡した場合には,長男の子どもである○○に全財産を相続させる。」というように具体的に記載しない限り,遺言が無効になってしまうと思われます。
遺言の効力が問題になるときには,すでに遺言を書いた人は亡くなっているため,その遺言の真意を遺言者に聞くことができません。したがって,遺言を書かれる場合には,可能な限りいろんなケースを想定してすべて盛り込んでおいた方が良いかと思います。