預金も遺産分割の対象に(最高裁判決)
本日,注目の最高裁判決がありました。
ある方が亡くなると相続が発生し,不動産や自動車などは相続人の共有状態になるものの,預金などの可分債権に関しては,亡くなると同時に当然に法定相続分に応じて各相続人に相続されると考えられていました(例外的に,相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることができました。)。
この際,特別受益や寄与分などは一切考慮されないため,単純に各相続人は銀行等に対して法定相続分相当額を払い戻してもらうことができ,当事務所でもそのような業務を行っておりました。
ところが,本日,最高裁判所が過去の判例を変更し,預金債権も遺産分割の対象(当然に分割されない。)との判決を出しました。
以下,本日の最高裁判決についてまとめたいと思います。
【事案】
1 登場人物
Aさん→今回の被相続人。
Bさん→Aさんの妹でAさんと養子縁組をしている。
甲さん→Aさんの弟の子(Aさんからすると甥で,甲さんからみればAさんは伯父。)であり,Aさんと養子縁組をしている。
乙さん→Bさんの子(Aさんからすると孫)
2 時系列
(1)平成14年にBさん死亡
(2)Aさんは乙さんに対して,約5500万円を贈与。
(3)平成24年にAさん死亡。これにより,相続人は,Aさんの子(養子)である甲さんとBさんになるのですが,すでにBさんは亡くなっているため,Bさんの子である乙さんが相続人(代襲相続人)となります。
(4)Aさんは預金約3800万円を残しており,これまでの判例からすると,甲さんと乙さんがそれぞれ約1900万円ずつ相続することになるが,甲さんが不公平(乙さんはAさんの生前に5500万円もらっている)だとして提訴。
【最高裁判決】
→ 最高裁サイト
理屈としては,なかなか説明がしづらいのですが,ざっくり言うと,「預金債権とともに預金契約上の地位や準委任契約等の債権債務も相続することになり共有状態が生じるのであるから,遺産分割の対象となる。」という感じです。いずれにしても,結論としては預金債権が当然に分割されることは無くなり,預金の払い戻しを受けるためには遺産分割協議が必要ということになります。
【今までと異なる点】
1 各相続人が単独で支払いを求めることができなくなる。
この最高裁判決により,遺産分割協議がまとまらないと預金の払い戻しが受けられなくなりました。例えば,相続人の中に行方不明者がいたとしても,とりあえず相続分相当額だけ払い戻すということがありましたが,これができなくなりました。判決でも触れられていますが,葬儀費用や医療費の支払い,相続税の納税など,相続発生後すぐに大きな金額が必要になることがありますが,今後困りますね・・・。
もっとも,多くの金融機関が遺産分割協議がまとまらないと預金の払い戻しをしない取り扱いだったため,現実的にはあまり大きな差はないかもしれません。
2 特別受益等が考慮される。
最高裁が実質的な公平を図るためにこの判決を出した理由でもあります。
従前のままの取扱であれば,約3800万円の預金は約1900万円ずつ分けられていましたが,今回の最高裁判決により遺産分割の対象となったことから特別受益(乙さんがAさんの生前にもらっていた約5500万円)が考慮され,恐らく預金については全額甲さんが取得することになると思います。