抵当権抹消登記

「敷地権」とは?

マンションに関する登記費用の見積書を作成する際に,登記事項証明書の実費の部分については敷地権化の有無によって費用が変わるためこの点について説明させていただくのですが,そもそも「敷地権」という言葉の意味が良くわからない方がほとんどだと思いますのでまとめてみたいと思います。
 

 
 

マンションの部屋の所有権

 

分譲マンションなど大きな一棟の建物の各部屋ごとに所有権が分かれている建物のことを法律上は,「区分建物」といい,その区分建物の各部屋のことを「専有部分」,専有部分の所有権のことを「区分所有権」といいます。これは,あくまで分譲マンションであり,賃貸アパートなど一棟全体を大家さんが所有している場合は,建物一棟全体に所有権が1つであるため区分建物ではありませんが,二世帯住宅の場合に1階が父親所有で,2階が子ども所有という場合には区分建物ということになります。 
 

土地の利用権も必要

 

建物は空中に浮いているなんてことはありませんので,どこかの土地の上に建っています。ということは,当然ながら建物を建築するためには土地を使用できる権利がなければなりません。一番メジャーなのは土地の所有権ということになりますが,地上権や賃借権ということもありますし,親族の土地に建てる場合は使用借権ということもあります。 

これは分譲マンションにおいても同様であり,専有部分を購入する場合には土地を使用できる権利も併せて取得する必要があります。このようなマンションが建っている土地のことを「敷地」と呼び,敷地を使用できる権利のことを「敷地利用権」と呼びます。なお,敷地は多くの区分所有者が利用しますので,敷地利用権は共有となり,各部屋の大きさに応じて共有持分を取得することが一般的です(区分所有法22条2項,同法14条)。 
 

「敷地利用権」と「敷地権」

 

上記のとおり,専有部分を所有するためには,敷地利用権たる所有権,地上権,賃借権,使用借権のいずれかの共有持分が必要です。 

したがって,専有部分を購入する場合は,専有部分の名義を変えることに加えて,敷地利用権の持分の名義も変えなければなりません。ただし,所有権,地上権及び賃借権については,登記をすることができますが,使用借権については登記をすることが認められていませんので,敷地利用権が使用借権の場合は登記をもって第三者に対抗することができませんが,そもそも分譲マンションの場合は赤の他人同士が所有していると思いますので,敷地利用権が使用借権ということは通常はありえないと思います。 
 

話を戻して,専有部分を購入するためには敷地利用権についての名義も変えることとなりますが,区分所有権はそれで1つの所有権として存在するため各部屋ごとにそれぞれ登記簿が存在するものの,土地については敷地全体を区分所有者全員で共有しているため,登記簿は1つしかありません(敷地が2つ以上あれば,登記簿も同数となります。)。とすると,土地については区分所有者全体の住所や名前が載っていますし,区分所有者が変わるたびに書き換えられていきますので,時の経過とともにものすごく膨大な量になっていきます。さらに,共有持分も「1234万5678分の12万3456」といったように細かい分数で表示されることが多く,何かしらのミスによって全員の持分を合計しても「1」にならないというような事態が生じてしまうことがあります。 
 

また,原則として敷地利用権は専有部分とは別に処分することができません(区分所有法22条1項)。例えば,あるマンションの専有部分及び敷地利用権の共有持分を所有しているAさんが専有部分をBさんに,敷地利用権をCさんに譲渡したとします。しかし,Bさんは敷地利用権がないので専有部分を使用することができませんし,逆にCさんは敷地利用権だけもらっても何もできません。まったくもって無意味です。したがって,法律では,専有部分と敷地利用権は別々に処分することができないことになっています。 
 

とすると,どうせ別々に処分できないのであれば,専有部分の登記簿に敷地利用権もセットにして,専有部分を譲渡すれば敷地利用権も自動的に譲渡したことになるようにすれば簡便ですよね? 

このように専有部分の登記簿に敷地利用権をセットにした時の敷地利用権のことを「敷地権」と呼び,このようなセットにすることを「敷地権化」と呼んでいます。敷地権は登記することが前提となりますので,所有権,地上権,賃借権に限られており,使用借権が敷地権となることはありません。 
 

すべてのマンションが敷地権化されているわけではない

 

現在,新しく建てられている分譲マンションはほぼ間違いなく敷地権化されており,専有部分を譲渡すればセットで敷地利用権もついてきます。しかし,昭和の時代に建てられた分譲の団地などは敷地権化されていないことが結構あります。この敷地権の有無は,登記簿を見て確認するしかありません。以下,それぞれのケースのサンプルとなります。 
 

【敷地権化されているマンションの登記簿】

①専有部分の登記簿
 

専有部分の表示の下に,敷地権の種類(所有権or地上権or賃借権)及び共有持分が記載されています。

 
 

②敷地権化された場合の土地の登記簿

 

敷地権化された後は,上記のとおり土地の持分等は専有部分の登記簿によって反映されていきますので,土地については敷地権化された旨の登記がされ,以降は共有持分の変更などがあっても土地の登記簿はなにも変わりません。

 
 

【敷地権化されていないマンションの登記簿】

敷地権化されていればあるはずの敷地権の記載がありません。

 
 

なぜ実費が変わるのか

 

登記簿謄本(登記事項証明書)は,取得方法によって金額が異なりますが,当事務所では1通当たり500円で取得しており,事前調査のための登記情報は1通当たり335円となります(自動見積もりだと337円と表示されますが,実際に見積書を作成する際には335円となります。システムの変更が追い付いておらず申し訳ございません<(_ _)>)。

 

敷地権化されているマンションの場合,専有部分の登記簿謄本を取得すれば土地に関しても「敷地権に関する表示」として併せて記載されておりますので,専有部分の登記簿謄本を1通のみ取得すれば良いこととなります。

しかし,敷地権化されていないマンションの場合は,専有部分の登記簿謄本に敷地のことが記載されておりませんので,専有部分の登記簿謄本に加えて,敷地である土地の登記簿謄本も取得しなければなりません。そして,敷地が1筆であれば良いのですが,敷地が複数存在する場合は,すべての土地の登記簿を取得しなければなりません。例えば,下記の登記簿謄本は,敷地権化されているので専有部分のみ取得すれば良いこととなりますが,もし敷地権化されていなかった場合は敷地分の登記簿謄本を12通も取得しなければならず,敷地権化されている場合と比べて10倍以上の実費がかかってしまっていたことになります。

 

 

なお,抵当権抹消登記や住所氏名変更登記における登録免許税は不動産の個数×1000円となりますが,これは敷地権化の有無に関係なく同額となります。

したがって,上記の不動産の場合,専有部分と敷地12個で登録免許税は13,000円ということになり,仮に敷地権化されていなくても13,000円となります。

 
 

まとめ

 

以上からざっくりまとめると下記のとおりとなります。

 

敷地利用権 → 専有部分を所有するために必要な土地の利用権(所有権など)

敷地権 → 専有部分の登記簿に一体化されている場合の敷地利用権

登記事項証明書等の取得費 → 敷地権化されていれば専有部分の登記事項証明書1通のみで良いが,敷地権化されていない場合は敷地の登記事項証明書も必要となる。

抵当権抹消登記等の登録免許税 → 敷地権化の有無に関係なく,不動産の個数×1000円