相続に関すること

贈与と遺贈

身寄りのない方が相続人とはならない親族に不動産を譲りたい場合に贈与と遺贈のどちらが良いかご相談をお受けしたため,備忘録の意味も込めて残しておきたいと思います。

 
 

贈与の場合

 

贈与とは,財産を譲る方ともらう方との契約によるもので,基本的には契約のときに効力が生じることとなります。したがって,後になって気が変わっても返してもらうということは原則としてできません。
ただし,効力発生日は必ずしも契約時に限定されているわけではなく,贈与の効力発生に条件を付けたり期限を定めたり,場合によっては一定の債務を負わせることもできます(負担付贈与)。
 

①登録免許税
登記を行う際に,法務局に対して登録免許税という税金を納めなければなりません。
贈与の場合,土地か建物かに関係なく,評価額に対して2%となります。したがって,例えば土地1000万円,建物500万円という評価額の不動産があった場合,名義を変えるために係る登録免許税は30万円ということになります。
 

②不動産取得税
不動産を取得した場合,最初に不動産取得税という税金が課され,基本的には評価額の4%となります。
しかし,様々な減税措置があるため,実際にはもう少し低くなります。
 

まず,住宅の場合は4%ではなく3%に減税されます(平成30年3月末まで)。
さらに,土地については評価額が1/2にされることなっています(平成30年3月末まで)。
さらにさらに,建物については新築の場合だと1200万円,中古の建物でも新築年によって100万円~1200万円が評価額から控除されます。
さらにさらにさらに,土地に対しては税額に対しての控除もあったりするため,不動産取得税がかからないケースもたくさんあります。
 

③贈与税
建物については評価額そのままの金額,土地については評価額ではなく路線価で土地の価格を算出し,金額に応じて贈与税を納めなければなりません。
仮に,土地の価格(路線価)が1200万円だとすると,建物の500万円を加えた1700万円から基礎控除の110万円を差し引いた1590万円に対する贈与税を支払わなければなりません。
国税庁のサイト( https://www.nta.go.jp/taxanswer/zoyo/4408.htm )によると,545万円の贈与税がかかることとなります。 
 
 

遺贈の場合

 

遺贈とは,遺言で財産を譲るもので,財産をお持ちの方が亡くなったときに初めて効力が生じることになります。したがって,贈与と異なり,遺言を書いた後に気が変わって取り消すということも可能です。
 

①登録免許税
相続人に対する遺贈であれば0.4%となりますが,相続人以外の方に対する遺贈は2%となりますので,この点は贈与の場合と変わらないことになります。
 

②不動産取得税
包括遺贈か特定遺贈かによって変わり,包括遺贈の場合は非課税であり,特定遺贈の場合には原則として課税されます。ただし,上記のとおり,不動産取得税は減税措置がたくさんありますので,まったくかからないというケースもあるかと思います。
※包括遺贈とは,割合によって財産を譲渡するもの(例えば,「私の財産の1/2をAさんに遺贈する。」)であり,特定遺贈は特定の財産のみを譲渡するもの(例えば,「私の財産のうち○○市○○町○○番地の土地をAさんに遺贈する」)であり,包括遺贈については,相続人と同一の権利義務を有するものとされていますので,場合によっては債務も承継することもあります(民法990条)。
 

③相続税
遺贈の場合は,贈与税ではなく相続税が課税されることになります。贈与税と相続税では,基礎控除の額が110万円と3000万円という大きな差があり,しかも税率の基準も大きく異なります。具体的な金額は,譲り受ける財産の金額によって変わりますが,遺贈を受ける財産が上記の土地と建物しかなかった場合,基礎控除の3000万円以下ですので,相続税はまったくかからないということになります。 
 
 

贈与税の特例措置

 

上記の前提だと贈与税はかかってしまいますが,贈与をする方と譲渡を受ける方の関係によっては贈与税が事実上かからないケースもあります。

①夫婦間での贈与
以下の条件を満たすと最大で2000万円(暦年の110万円を含めると2110万円)が非課税となります。
・夫婦間の贈与であること
・居住用不動産(または居住用不動産取得のための金銭)の贈与であること
・贈与を受けた翌年3月15日までにその不動産に居住し,その後も居住し続ける予定であること。

②直系尊属からの贈与
以下の条件を満たすと省エネ住宅であれば1200万円,それ以外の住宅だと700万円の贈与が非課税となります。
・居住用の不動産の新築,増築等の費用に充てるための資金の贈与であること
・自己の父母や祖父母など直系尊属からの贈与であること
・贈与を受ける方が,贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上であること
・贈与を受ける方の所得が2000万円以下であること
・住宅の取得が親族所有のものではないこと(または工事業者が親族でないこと)
・贈与を受けたときに日本国内に在住していること
・贈与を受けた翌年3月15日までにその不動産に居住し,その後も居住し続ける予定であること。

③相続時精算課税制度を利用する場合
以下の条件を満たすと,贈与税ではなく相続時に相続税で精算することとなり,場合によっては非課税となります。
・贈与をする年の1月1日時点において,贈与する方が60歳以上,受ける方が20歳以上であり,受ける方が贈与する方の推定相続人または孫であること
・2500万円までの贈与であること(超過する場合は超過分に20%の税金がかかります。また暦年贈与の110万円も加算する必要があります。)

 

まとめ

 

したがって,登録免許税や不動産取得税についてはあまり差は無いのですが,贈与税(相続税)の部分で大きな差があり,単純に税金の多寡だけで考えると,遺贈の方がかなりお得ということになります。
もっとも,上記のとおり,贈与と遺贈では効力が生じる時点に差がありますし,遺贈の場合で他に相続人がいる場合は遺留分なども考慮する必要があることから,税金以外の部分も十分考慮してお決めいただいた方が良いかと思います。