不動産売買に関すること

地面師真っ盛り

先日,地面師の話を書きましたが,その後もたくさんの地面師事件が報道されています。
 

→ アパホテルから12億円を騙し取った「地面師」驚きの手口
 

→ 弁護士まで騙されたのか——不動産詐欺事件の最高裁判断で問われる役割
 
 


 

地面師事件のキモの部分は,売主の本人確認であり,そのための書類としては免許証や権利証,印鑑証明書をどうやって地面師側が用意するかとなります。
このうち印鑑証明書については,方法は書きませんが比較的容易に手に入ると思われます(犯罪です)。しかも偽造ではなく本物を入手することが可能ですので,当然ながら何も事情を知らない司法書士が見抜くことは不可能です。もし,偽造したものであれば,コピーすることで見抜ける場合があります。
 

あとは免許証と権利証ということになりますが,免許証は精巧に偽造する組織があるそうですので,何らかの誤りがあれば別ですが,これもまた見抜くことはかなり厳しいかと思います。
なお,誤りを見抜く方法として,比較的有名な以下の方法で発覚する場合があります。
 

(1)最初の2桁は,最初の免許取得地
最初の2桁は初めて免許を取得した都道府県(北海道はさらに細かい)となっています。すべての都道府県の番号を覚えるのは大変ですが大まかな地方としては,10番台が北海道,20番台が東北,30番が東京,40番台が東京以外の関東甲信越,50番台が中部,60番台が関西,70番台が中国,80番台が四国,90番台が九州沖縄となっています。
このうち,30番台は東京の30番のみですので,31とか32とかであれば一発で偽造と判明します。また,2桁目が6以上の大きい数字は新潟(46),山梨(47),長野(48),静岡(49),鹿児島(96),沖縄(97)しかありませんので,40番台または90番台以外の大きい数字の時点で偽造と判明します。
もちろん,最初の免許取得地を聞いて,番号が異なれば偽造を疑う一つの要素となります。
 

(2)次の2桁は初めて免許を取得した西暦の下2桁
免許証番号の下に原付や自動車などの取得年月日が書いてありますが,そことのズレで偽造が判明する場合があります。
例えば,私が初めて免許を取得したのは平成8年(1996年)であるため,3桁目と4桁目は「96」になっています。
 

(3)最後の数字は発行回数
紛失等により再発行した回数が記載されます。多くても2くらいだと思いますので,7とか8だと疑った方が良いと思います。
 

残る権利証についてですが,権利証と言っても,従前の権利証と平成17年から始まった登記識別情報通知の2種類があり,そのどちらかによって対応が変わります。

まず,先に登記識別情報通知について説明すると,これは紙そのものが重要なのではなく,その紙に記載されているパスワードが重要となります。そして,登記申請をする前にそのパスワードがちゃんと発行されているのかどうか(失効確認),また,パスワードが分かれば登記申請前にそのパスワードが有効かどうかを確認することができます(有効確認)。登記申請の全件において有効確認をすることは無いと思いますが,地面師がかかわるような大きな金額の取引であれば,事前に有効確認をすることで未然に防ぐことができます。
もっとも,当該登記識別情報が盗まれたものだとすると,パスワードも正しいものですので司法書士が見抜くことは不可能です。
 

最後に,従前の権利証の場合,紙そのものが重要ではあり,特に偽造防止措置がとられているわけではありませんので,カラーコピーをすることは可能です。しかしながら,経年劣化による紙の質感の変化などで気付くことはあるかと思いますので,他の書類よりは比較的見抜きやすいと思います。
 
 

上記の弁護士さんが騙された事件は,権利証を偽造するのではなく,弁護士さんに本人確認情報を作成してもらい,登記申請をしています。

そもそも,本人確認情報とは,登記申請を代理人として申請する司法書士または弁護士が,売主さん本人であることを確認して「本人確認情報」という書類を作成すると,それが権利証の代わりになるというものです。正確には違いますが,一時的に権利証を再発行するようなものです。したがって,司法書士や弁護士が地面師側と組むと容易に権利証を作り出すことができることになります。実際に,地面師側についた司法書士が逮捕されている事件もあります(もちろん,犯罪です。)。
 

上記の弁護士さんの事件は,弁護士さんが地面師側だったのではなく地面師側に騙されたものですが,正直なところ,司法書士であればもっと深く調査をしたと思います。例えば,本人確認を行う場所を事務所ではなくこちらから売主さんの自宅にお伺いして室内に飾ってあるものなどからも情報を収集します。以前私が売主さんのご自宅にお伺いしたときは,賞状が飾ってあったのでその賞状の取得の経緯を聞いたり,置いてあるDVDを見てその話しの内容を伺ったりもしました。
 

もちろん,これにより100%防げるものでもありませんが,その可能性を少しでも減らすべく調査を行わなければなりません。
 

と,いろいろ書いておりますが,幸いにして私は地面師事件に巻き込まれたことが無いので偉そうなことを書いているにすぎず,実際に巻き込まれた時に本当に見抜けるかどうかは分かりません。ただ,そうなったときに見抜ける可能性を高めるよう,日々様々な情報を収集するしかありませんね。