相続放棄

相続財産管理人(清算人)の選任について

先日,相続放棄に関連して,相続財産管理人選任の手続(書類作成)を行いましたので,こちらについてまとめたいと思います。

※令和5年4月1日の民法改正により現在は「相続財産清算人」の選任手続になっております(令和5年4月1日追記)。また、相続放棄の申述を行った場合、現に占有していない限り管理責任(法改正により「保存義務」に変更)は負わないこととなりました。

 

 

相続財産管理人とは

ある方が亡くなると,その方の財産はその方の相続人が相続します。 

しかし,相続は不動産や預貯金のようなプラスの財産のみならず,借金などマイナスの財産も相続することとなるため,場合によっては相続すると損をする場合もあります。このような場合には,相続放棄の申述民法938条)を家庭裁判所にすることで,財産関係に関しては相続人ではなかったこととなり,同順位の他の相続人または次順位の相続人が相続するかどうかを考えることとなります(親族関係がなくなるわけではありません。)。

 

例えば,父親Aさんが亡くなり,相続人が子どもBさんとCさんの2名だった場合,Bさんが相続放棄をすれば残るCさんがAさんのすべての財産を相続することとなりますし,Cさんも相続放棄をすれば次順位の相続人であるAさんの両親等の直系尊属の方が相続人となります(民法889条)。そして,すでに直系尊属の方が亡くなっている場合や両親等も相続放棄をした場合は次順位の兄弟姉妹が相続人となります。

 

では,兄弟姉妹も全員が相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか。また,そもそもAさんが天涯孤独な方で,当初から相続人が存在しない場合はどうなるのでしょうか。このような場合,法律上はAさんの財産は法人となり(民法951条),相続財産管理人が管理等を行うこととなっています(民法952条)。とはいえ,自動的に相続財産管理人が選任されるわけではなく,利害関係人等が家庭裁判所に選任の申立てをして初めて選任されることとなりますので,相続人がいないけど相続財産管理人もいないという状況は普通に存在することとなります。

では,相続人はいないし相続財産管理人もいないという場合において,亡くなった方が所有していた建物が老朽化によって倒壊して第三者に損害を与えた場合は誰が損害を賠償するのでしょうか。

 

上記のとおり全員が相続放棄をした結果相続人がいないような状況となった場合であり,相続財産管理人が選任されていない場合だと,せっかく相続放棄をしたにも関わらず当該(元)相続人は責任を負わされることがあります。というのは,相続放棄をした場合でも次順位の相続人または相続財産管理人が選任されて管理が開始されるまでの間は,相続放棄をした(元)相続人に被相続人の財産を管理する義務があるからです(民法940条)。

したがって,単に負債が多くて特に財産もないというような場合であれば相続放棄をすることで解決できますが,管理が必要な財産がある場合は相続放棄だけでは解決せず,財産の管理義務を免れるために相続財産管理人の選任まで併せて行う必要があります。 

 

相続財産管理人の選任に関する費用

相続財産管理人の選任申立てに際して,一番大きいのは予納金です。
予納金とは,文字どおり「予め」裁判所に「納める」「お金」のことであり,相続財産を管理するための費用だったり,相続財産管理人の報酬に充てられるお金です。

多くの裁判所において,相続財産管理人として選任されるのは弁護士さんであり,裁判所によっては司法書士が選任されることがあります。いずれにしても,法律の専門家が選任されますので,その専門家の報酬が必要になってきます。もし,亡くなった方が預貯金などをお持ちであればそこから相続財産管理人の報酬を払えば良いため,申立てのときにはそれほど多額の予納金は求められません。しかし,まったく財産が無い方の場合は遺産から相続財産管理人の報酬が捻出できませんので,その負担は申立人がすることになります。予納金の額は事案によって変わりますが,数十万円から場合によっては100万円程度になることもあります。

とすると,まったく財産はないが古い建物など管理が必要なものが残されている場合は,大変心苦しいのですが相続放棄をしたにもかかわらず,多額の費用をご負担いただくこととなってしまいます。

 

その他の費用としては,申立書に貼付する収入印紙が800円,予納郵券が数千円,官報公告費用も数千円程度ですので,合計しても1万円程度であり,申立ての際に必要な戸籍謄本等の取得費用を含めても2万円前後かと思います。

 

なお,相続財産管理人選任申立てに関して,弁護士や司法書士(書類作成)にご依頼される場合は,当該専門家の報酬が別途かかります。これは各事務所によって異なりますが,弁護士さんだと20万円~40万円程度,司法書士だと10万円~30万円程度ではないかと思います。