相続登記の義務化続報
今年の2月に相続登記が義務化されるかもしれないとの記事を書きました。
前回の記事にも書きましたが,相続登記を義務化しようという理由は,相続登記がされないと現在の所有者がどなたなのかを登記簿から把握することができず,そうすると公共事業などをしようにも所有者が不明であるため一向に進まないという問題があったためです。
この点について昨日,新しい記事がありましたのでまとめてみたいと思います。
相続登記は手続が大変
相続登記を行う場合,相続人が単独なのか複数なのか,揉めているのかそうでないのか,など状況によって必要な手続や書類が大きく異なりますが,一般的には下記の書類が必要となります。
・被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本等一式
・相続人全員の戸籍謄本及び取得する方の住民票
・相続人全員で協議をした遺産分割協議書
・相続人全員の印鑑証明書
・登記申請書
私ども司法書士にご依頼いただいた場合,印鑑証明書については相続人の皆様に取得していただく必要がありますが,その他の書類はすべて取得ないし作成することができますので,それほど大変ではないように思います。
しかしながら,上記の書類等をすべてご自身で取得及び作成するのは大変だと思いますし,遠方に不動産がある場合は,原則としてその不動産を管轄する法務局まで行く必要がありますので,それはもう大変だと思います。
※司法書士に限らず,オンラインで申請することができるようになっており,遠方の法務局まで行く必要がない場合もあります。しかし,そのための設備を揃えるのは極めて大変ですので,事実上,司法書士しかオンラインで申請できないと思われます。
加えて,上記の遺産分割協議書については,相続人間で話がまとまっていることが前提ですので,もし話がまとまっていないようであれば家庭裁判所における調停や審判によって決めざるを得ず,多くの時間と費用がかかってしまいますので,ますます大変です。
費用が掛かる
上記手続を司法書士等にご依頼いただくとその報酬がかかってしまいます。
また,仮にすべてをご自身で進めるとしても戸籍謄本等の取得が必要となるうえ,法務局に申請する際に登録免許税という税金がかかってしまいますので,使わない土地や建物だとしても,そのためには最低でも数万円の費用がかかることになりますし,上記のとおり不動産が遠方にある場合はそこまでの交通費などもかかってしまいます。
義務化されたとなると
さて,記事によれば,相続登記を義務化するに当たり,罰則を設けることを検討しているようです。ただし,上記のような難しい手続ではなく,簡素化してできるよう進めていくとも書かれております。
1 罰則について
前回も書きましたが,恐らく罰則は「過料」という罰金のようなものが科されることになると思われ,その金額も10万円以下であろうと推測されます。これは,表示の登記に関して「10万円以下の過料」とされているためです。もっとも,現実的に世の中には数えきれないほどの相続登記未了の不動産がありますし,現実的に表示の登記の未了に関しても過料が科されることはまずないため,相続登記が未了だからといって過料が科されることは考えにくいです。
さらに,法務局は登記簿上の所有者が亡くなっていることを把握することができませんので,相続登記が未了なのかをどうやって知るのでしょうか。この点,後日相続登記の申請があったときに過料を科すということも考えられますが,逆に考えれば相続登記をしなければ過料が科されることもないとなるため,むしろ相続登記をしない人が多くなるように思われます。いずれにしても,罰則を科すからと言って相続登記が進んでなされるかというと疑問です。
2 手続の簡素化について
手続が簡素化されれば相続登記の申請率は上がると思います(その分,司法書士の仕事が減るかもしれません・・・)。
ただ,手続が簡素化されるということは,これを悪用して,本来は相続人間で話し合いがまとまっていないにもかかわらず,勝手に相続登記がされて揉めるということも相続できます。この点は,どのように簡素化されるのか報道がありませんので単なる憶測でしかありませんが,「簡素化」=「みんなにとって良い制度」とは限りませんので,十分検討する必要があるかと思います。
3 相続登記を推進するためには
正直なところ,価値がある不動産であれば皆さん相続登記をしてくれると思いますが,山だったり,田舎にある価値のない土地だったりするとなかなか相続登記がされません。そして,上記のとおり相続登記がされずに問題になっているのはまさに山など,あまり利用価値のない土地です。そのためにわざわざ費用をかけて自ら進んで登記をする人がどれほどいるのでしょうか。
ですので,ここはもう役所(戸籍などを扱う住民課など)と法務局が連携して,所有者が亡くなった場合は法務局に通知が行って,登記官の職権で登記がされないとどうにもならないように思います。ただ,これを行おうとすると,凄まじい規模のコストと時間がかかりますので,正直なところ現実味は薄いと思います。
ということで,まったくどのようになるのか分かりませんが,また進展がありましたらまとめていきたいと思います。