不動産売買に関すること

農地について

絶対数として多い訳ではありませんが,当事務所においても農地(田や畑)に関する登記をご依頼いただくことがあります。 

農地については様々な制約があり,私どもとしてもかなり注意して取引に関与させていただくのですが,一般の方が勘違いされていることが多いので,一度まとめておきたいと思います。
 

 
 

1 農地とは

 

私どもが言う農地とは,端的に申し上げると耕作の目的に供される土地のこと(農地法2条1項)であり,用水を用いて耕作する土地が「田」,用水を用いないで耕作する土地が「畑」となります(不動産登記事務取扱手続準則第68条)。
 

この農地を売買や贈与をするためには,農地法所定の手続を踏まないと売買等をすることができないことになっており,もし,手続を踏まずに売買をしたとしても,法律上は無効となります。無効である以上,登記名義を変えることもできません。ただし,農地法所定の許可が得られることを条件とする条件付仮登記は可能です。
 

なお,登記手続においては,登記簿の地目が「田」や「畑」になっている場合はもちろんのこと,登記簿の地目が「宅地」や「雑種地」になっていても,評価証明書の現況地目が「田」や「畑」になっていれば農地と判断されますので,下記の手続を踏まないと登記申請は却下されてしまいます。 
 

2 農地法所定の手続

 

農地を売買等をする場合,以下のいずれかの手続が必要です。
 

農地法3条の許可 → 農地を農地のまま売買,贈与等をする。

農地法5条の許可 → 農地を農地ではないものに変更したうえで売買,贈与等をする。
 

なお,間にある農地法4条の許可は,農地を農地以外に変更するための許可であり,所有者は変わりません。したがって,農地法3条と4条の許可を合わせたものが5条の許可ということになります。
 

ただ,この許可はそう簡単に出るものではなく,特に5条の許可についてはやむを得ない事情がないと基本的には許可がされません。例えば,農地の所有者の子どもが家を建てようと思っているが,他の土地は無く,他の土地を取得するような費用も無いので,やむを得ず農地を宅地に変更したいというような場合になります。 
 

3 許可の例外

 

原則として上記のようにハードルが高い許可を取る必要があるのですが,許可が無くても良い場合があります。大きく分けて以下の2種類があります。
 


(1)市街化区域の場合

土地が所在する場所が市街化区域に指定されている土地の場合は,農業委員会に「宅地に変えますよ」という届出をすれば良いことになっております。許可だと農業委員会の判断を仰ぐことになりますが,届出は単に届出書を出せば良いだけですので,ほぼ無条件だと思ってもらって良いと思います。



 

(2)許可を必要としない原因等の場合

売買や贈与などで第三者に譲渡する場合は許可が必要になるのですが,許可が不要な原因があります。

例えば,相続の場合は許可は必要ありません。これは農地の所有者が亡くなることによって,民法の規定に基づき相続人が相続するのであって,農業委員会の判断が入る余地が無いからです。なので,相続人がまったく農業をやっていなくても農地を相続することはできます。
 

また,相続人と同じ権利義務を有することになる包括受遺者についても許可は必要ありません。しかし,相続人以外の者が特定遺贈として農地をもらい受ける場合は許可が必要になるので注意が必要です。
 

さらに,時効取得や共有持分の放棄なども農地法の許可は必要ありません
 

加えて,農地を担保として取る場合(抵当権設定)についても農地法の許可は不要です。というのは,あくまで担保に取るだけであって,実際に使っているのは元の所有者であって,現状と何も変更が無いからです。 
 

4 まとめ

 

上記を大まかにまとめると以下のとおりとなります。

【原則】

農地の名義を変えるためには許可が必要
 

【例外】

①市街化区域であれば許可は不要

②相続,包括遺贈,時効取得であれば許可は不要

③抵当権設定であれば許可は不要
 
 

つい先日も,借金が返せないということで,弁済してもらう代わりに債務者が所有する農地の名義を変えたい(代物弁済)というご相談があったのですが,こちらは農地法の許可が必要であり,かつ,許可が得られる見込みはないため,抵当権設定登記にしておくといった事例もあります。
 

農地は,当事者の思い通りに処分できないことの方が多いので,お近くの司法書士・行政書士にご相談ください。