遺言ができる能力(認知症等)
最近、立て続けに遺言書の作成に関するご相談をいただいております。
遺言書の作成は、遺言書を書かれるご本人(以下、「遺言者」といいます。)自らが将来のために作成しておきたいとして書かれるケースが多いのですが、遺言者ではなく、将来相続されるであろう遺言者の推定相続人の方が主導して進められることがあります。
もちろん、最終的には遺言者ご自身の判断がすべてですので、推定相続人の方がいくら主導したとしても遺言者ご自身の本意であれば基本的にはどのような内容(例えば、遺言を主導した推定相続人が全部を相続する)であっても問題ありません。
先日も書きましたが、遺言書を作成する際に、日付を記載したり、署名をするなど、形式的な要件が厳しいためその点に注意が行きがちですが、遺言者に意思能力(遺言能力)がないと無効になってしまいます。
40代や50代であればまだまだ大丈夫だと思いますが、60代、70代、80代と年齢が上がるにつれて、判断能力が段々と衰えてきますので、遺言をするときの意思能力の有無が判然としない場合には、遺言者ご本人が亡くなったあとに遺言無効の訴訟を提起される可能性もあります。
今回は、年配の方(特に認知症の方)の遺言作成についてまとめたいと思います。
1 遺言能力
民法には、遺言ができる年齢として、15歳と定められております(民法961条)。したがって、15歳以上であれば未成年者であっても親権者の代理や同意なく遺言をすることができます(民法962条・5条)。
ただ、15歳以上であれば良いかというとそうではなく、認知症や精神障害などによって遺言の内容がまったく認識できないような方がした遺言は無効となってしまいます(民法963条・民法3条の2)。
この点については、一般的には意思能力があれば良いと解されており、7歳前後の判断能力があれば良いとの考えもあれば、15歳以上でなければならないとの考えもあります。いずれにしても、比較的幼少期レベルで判断できる能力があれば良いということになります。特に、遺言というものは遺言者の人生最後の意思表示となりますので、どちらかと言えば有効になる方向で判断されることになります。
2 成年後見人が選任されている場合
認知症や精神障害等によって成年後見の申立てがされ、成年後見人が選任されている場合があります。成年後見人が選任されると、日常生活に関するもの(例えば、コンビニで買い物をする等)以外は、ご本人に代わって成年後見人が代理して契約等を行うことになります。
ただし、身分行為に関する行為は除外されており、例えば結婚をされる場合には成年後見人が代理したり、同意(許可等)をする必要はなく、ご自身が自由に行うことができます(民法738条)。
この点、遺言については、大きな財産を贈与(遺贈)することができますので財産的な行為であると同時に、遺言によって認知等もできますので、身分行為のような性質もあります。
そこで、法律上は、①能力が一時的に回復した場合であり、②医師2名が立会い、③立ち会った医師が一時的に能力を回復していた旨を遺言書に付記して署名捺印する、という3つの要件を満たした場合に遺言をすることができることとされております(民法973条)。
ただし、あくまでこれは形式的な要件であり、実際に遺言能力が無かった場合には上記の要件を備えていたとしても無効になります。とはいえ、医師2名が立ち会っており、しかも問題なかった旨の記載と署名押印までされている訳ですから、実際上は遺言が無効になる可能性はかなり低いと思います。
なお、私は現在複数の方の成年後見人に選任されておりますが、やはりかなり個別事情かつその時の状況によって波があり、まったく遺言をするのは常に難しいという方もいれば、調子が良さそうなときには問題なく遺言ができそうな方もいらっしゃいます。
3 成年後見人が選任されていない場合
上記の規定はあくまで成年後見人が選任されている場合であるため、認知症との診断をされていたとしても、医師の立会いなく遺言をすることができます。遺言の方式も特に定められていませんので、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも要件さえ備えていれば少なくとも形式的には有効ですし、公正証書遺言であれば形式的な違反で無効になる可能性は極めて少ないと思います。
したがって、あとは遺言能力があるかどうかがとなりますが、この点を100%完全にクリアした遺言書を作成する方法は残念ながら存在しません。というのは、そのときに遺言能力があったかどうかを100%証明する方法が無いからです。ただ、少しでも有効となる可能性を高めるため、私どもが関与させていただく際には、遺言をされる(遺言書を作成する)少し前に担当の医師にその時の診断書を作成してもらっております。加えて、公正証書遺言にすることにより、さらにその可能性を高めます(公正証書遺言は公証人が遺言者と面談をするため、意思疎通がまったくできないと公正証書遺言を進めることができません。)。
ということで、年配の方が遺言をされる際には、形式的な要件を備えることはもちろんのこと、遺言能力についても注意をする必要がありますので、ご心配な場合はお近くの弁護士や司法書士にご相談いただき、できれば公正証書遺言にて進められた方が良いと思います。