土地の値段(一物四価)
売買や相続による所有権移転登記を申請する際に、登録免許税という税金を法務局に納めなければなりません。
この登録免許税は、土地の値段を基に移転する原因に応じた税率を掛けて算出します。
例えば、土地の値段が1000万円だとした場合に、売買で所有権移転をする場合は15万円(1.5%)、贈与で所有権移転する場合は20万円(2%)、相続で所有権移転する場合は4万円(0.4%)です。ただし、上記の税率は改正によって変わることがあり、土地の所有権移転については本来は2%であるところ租税特別措置法により1.5%に軽減されています。
さて、簡単に「土地の値段」と言いましたが、実は土地の値段は一律に決まっているものではなく、状況に応じて同じ土地なのにその値段が変わります。
例えば、上記の登録免許税に用いる土地の値段は、正確には「固定資産課税評価額(通常は単に「評価額」と言います。)」を基に計算することになります。
また、相続税を計算する場合に用いる土地の値段は、「相続税路線価(通常は単に「路線価」といいます。)となり、贈与税でもこちらを用いることになります。
このように、単に「土地の値段」と言っても、どの意味で使っているかを誤るとトラブルになる可能性がありますので、今回はこの土地の値段についてまとめてみたいと思います。
一物四価
一般的に、土地の値段は4種類あると言われており、「一」つの土地(物)に「四」つの「価」格があるので、このことを指して一物四価と呼ばれることがあります。
この4つの種類は、一般的に高い順にならべると以下のとおりとなります。
①流通価格(市場価格・実勢価格)
②公示価格(公示地価)
③路線価(相続税路線価)
④固定資産税評価額
ただ、実際には上記の順番は逆転することがあります。例えば、まったく買い手が付かないような土地だと路線価や評価額よりも低い金額で取引されることはあります。
流通価格(市場価格・実勢価格)
これは、一般的に取引される金額となります。不動産業者に仲介を依頼し、第三者から土地を購入するような場合はこちらの金額となります。
「隣の土地は借金をしても買え」という格言もあるくらいですので相場よりも高いこともあれば、親族間や知人間の売買等の理由により相場より安く取引されることもありますが、最終的には当事者が合意した金額が正しい金額となりますので、一言で言えば「時価」となります。
なお、他の価格と比べると一番高いことが多いと思います。
公示価格
地価公示法を根拠として公示されるものであり、特定の地域等において標準的な場所を選定し、その場所に関する土地の値段を公示するものです。
つまり、個々の土地ごとの金額が出るのではなく、その周辺地域の目安となる金額ということになります。
一般的には、流通価格より低く、路線価より高い金額になる傾向にあります。
こちらの金額は、公共事業による土地の収用等の際の補償金を計算するのに用いられており、司法書士が関与することはあまりありません。
この公示価格は国土交通省のサイトで確認することができます。
路線価(相続税路線価)
こちらは、道路に接した土地についての平米単価となり、国税局長によって定められたものです。
路線価は、接している道路を基準としていますので、国道などの大きな道路に接しているほど金額が高くなりますし、角地など複数の道路に接している場合も金額が高くなります。また、基本的には市街地にしか定められませんので、都市部から離れると路線価が無いことも多く、そのような土地は固定資産税評価額の1.1倍とされることが多いです(倍率地域)。
一般的には、公示価格より低く、固定資産税評価額よりは高くなり、概ね公示価格の8割程度になります。
相続税や贈与税の計算をする際には、こちらの金額を基に算出いたしますので、通常は税理士さんが一番目にするものとはなりますが、贈与の際にどの程度贈与税がかかるかを判断し、場合によっては贈与自体をキャンセルすることもありますので、司法書士もよく目にする価格となります。
この路線価は、国税庁のサイトで確認することができます。
固定資産税評価額
総務大臣が告示した固定資産評価基準を基に各自治体(市町村)が固定資産税を課すために個々の不動産(土地及び建物)について定めるものであり、この評価額に1.4%を掛けた金額が毎年1月1日時点の所有者に課されることとなります。なので、年の途中で所有者が変わったとしても1月1日時点の所有者が1年分を納める必要があるため、通常は日割計算をして新旧の所有者で精算することになります。
一般的には路線価よりも低くなる傾向があり、公示価格の7割程度になります。
登記申請の際に、不動産の価格を基に登録免許税を計算する場合は、まさにこの固定資産課税評価額を基に計算しますので、司法書士が毎日のように目にする価格となります。
公示価格や路線価は毎年変わるのに対し、固定資産課税評価額は3年に一度しか変わりません。そして、令和3年4月1日に新しい価格に変わりますので、現時点(令和3年3月時点)においては、4月1日以降に登記申請する場合の登録免許税の計算はできないことになります。とはいえ、それだと見積書が作成できないため、暫定的に現時点での固定資産課税評価額で費用を計算させていただき、4月1日以降に改めて正確な費用をお知らせすることとなります。
この固定資産課税評価額は、公示価格や路線価と異なり、ピンポイントで各不動産の価格がわかることとなるため、第三者が自由に調べることは基本的にはできません。
不動産の所有者であれば毎年4月から5月頃に不動産のある自治体から固定資産税の通知書が送付されてきますので、こちらで固定資産課税評価額を確認することができますし、第三者であっても裁判に利用するなどの正当な理由があれば、自治体の税務課において評価証明書を取得することで評価額を調べることができます。
上記のとおり、司法書士は登記申請の際に利用しますので、すべての自治体ではないものの多くの自治体において所有者からの委任状を添付することなく評価証明書や評価通知書を取得することが認められています。
まとめ
以上のとおり、単に「土地の値段」と言っても色々な意味がありますが、通常は流通価格を指すことが多いかと思います。ただ、万が一誤解して話を進めてしまうとトラベルになってしまうこともありますので、どの土地の値段のことを話しているかを確認してから話を進められた方が安全かと思います。