成年後見人選任によるメリット・デメリット
先日、遺産分割協議のために成年後見人を選任する手続についてご依頼いただき、私自身が家庭裁判所から成年後見人に選任されて就任いたしました。今後は、原則としてはご本人がお亡くなりになるまで私が成年後見人といてご本人の代理人として各種契約や意思表示を行ったり、財産管理を行っていくことになります。
さて、この成年後見人についてですが、世間的にはあまり良くない印象を持たれていることもあり、今回は成年後見人選任に関するメリットやデメリットについてまとめたいと思います。
1 成年後見人とは
認知症や精神疾患等により、ご自身で判断することができなくなった場合に、その代理人等として選任される者となります。
あくまで認知症や精神疾患等の意思判断に関わる力が衰えてきていること理由で無ければなりませんので、「交通事故で手が動かなくなってしまい筆記ができなくなった」、「足腰が弱くなってしまって銀行等に行けなくなった」等の身体的な理由で成年後見人等を選任してもらうことはできません。
また、意思判断に関する力も人によって程度差がありますので、比較的軽い場合は補助、その次が保佐となり、一番重い場合が成年後見となります。
この点は、医師の判断になるため私どもでは明確な判断はできませんが、補助や保佐に該当する方の場合は、あまり申立てをする必要性が無いこともあり、結果としては成年後見のケースが一番多いと思います。
2 成年後見人等の選任が必要になる場合
不動産の売買や贈与、相続や遺言など、こちらにまとめておりますので、こちらをご覧いただければと思います。
3 成年後見人選任のメリットとデメリット
(1) 後見人選任の4大デメリット
成年後見に関するご相談をいただいた際に、必ず私は4大デメリットについて説明させていただいております。成年後見人の手続をご検討されている方は、当該手続のみでの選任をお考えの方が多いため、こちらの説明をすることで実際に手続を中止される方も多くいらっしゃいます。
①必ずしも候補者が選ばれるとは限らない。
申立てをする際に、候補者を立てることができ、「父親の成年後見人として長男を候補者として申立てをする」ということが可能です。
ただし、必ずしも候補者が選任されるとは限らず、まったく無関係な弁護士や司法書士等の専門職が選任されることもあります。候補者が選任されない場合としては、「父親の管理すべき財産がかなり多い」、「推定相続人(兄弟間など)で意見の相違がある」、「候補者が成年後見人としての資質が心配(金銭管理が弱い等)」などがあります。
さらに、候補者が選任されなかったことを理由として申立て自体を取り下げることはできませんし、成年後見人を別の人にしてほしいというような異議申し立てもできません。
なお、一般的に、弁護士や司法書士を候補者とした場合には、当該専門家が選任されることが多く、少なくとも私が候補者として申立てをしたものについては全件私が選任されております。
また、このような場合に備えて、任意後見契約を締結しておくことで、事前に後見人になる方を決めておくという方法も考えられます。
②成年後見人は一生続く
上記のとおり、成年後見人の選任は売買のためだったり、遺産分割のために申し立てを行うことが多いかと思いますが、その手続が終わっても成年後見人が解任されるわけでは無く、その後もずっと続きます。
例外的に、成年後見人が横領などを行って解任、高齢や病気等で辞任という成年後見人側の事情で変わることや、ご本人さんの能力が回復して成年後見人が必要無くなるということはあり得ますが、そうでない限りはご本人さんがお亡くなりになるまでずっと続くことになります。
③成年後見人の費用がかかる
成年後見人等が専門職か親族かに関係なく、成年後見人等は家庭裁判所に報酬付与の審判を申し立てることによりご本人さんの財産から報酬を受領することができます。報酬額は家庭裁判所が一方的に決めており、その金額に対して異議申し立てをすることはできませんので、私どもとしてもどのような基準で報酬が決められているのかよく分からない部分がありますが、いずれにしてもそれなりの費用がかかります。経験上、売買や遺産分割等が無く、平和的に1年過ごした場合で年額概ね20万円台から30万円台になることが多いと思います。
なお、勘違いされている方もいらっしゃるのですが、報酬は専門家に限らず親族の方でも受領することは可能です。ただ、家庭裁判所に報酬付与の審判の申立てをして、実際に報酬を請求されている方は多くない印象です。
④申立てに関する費用は申立人負担
上記のとおり、成年後見人が選任された後については、ご本人さんの財産から報酬が支払われますが、申立てに関する費用は申立人の方にご負担いただくこととなります。
(2)後見人選任のメリット
①財産が守られる
正直なところ、親族の方にとってはデメリットになるかもしれませんが、成年後見人は家庭裁判所(場合によっては後見監督人等)の監督を受けつつ、ご本人さんの財産を管理しますので、不当に失われることは少ないです。例えば、現金については通常の預貯金等で管理することとなり、株式投資や不動産投資などにお金が回ることはありません。
一方で、相続対策などで生前贈与することも基本的にはできませんので、そういう意味で親族の方にとってはデメリットかもしれません。
あくまで、成年後見制度はご本人の財産を守る制度であって、親族のための制度では無いからです。
②様々な手続は後見人等がやってくれる
上記の売買や遺産分割等は当然のこと、病院での手続や施設との契約等についても成年後見人が代理で行うこととなります。
ただし、あくまで契約等を行うだけであって、現実的な生活援助や介護などを行うことはできません。
4 成年後見人を非難するご意見について
ニュースサイトなどで、親族の方のご意見として成年後見人を非難するコメントをよく拝見します。
そもそも成年後見人等の横領等の犯罪行為は言語道断ですので、非難どころか刑事・民事の両面から徹底的に糾弾していただくべきかと思います。また、成年後見人がまったく仕事をしていないということであればもちろん非難していただいて良いかと思いますし、場合によっては解任の申立てをしても良いかと思います。
一方で、実際には上記3(2)①での非難が多いように思います。つまり、親族の方がご本人の方の財産を使えなくなることでの対立が多いと思います。
当事務所では幸いにして親族の方と対立したことは一度も無いのですが、過去には、無断でご本人の財産から親族の方が引き出していた預金については全額返還するようお願いして戻してもらいましたし、親族の方がご本人のためと思って色んな契約をしてきて、その請求書だけ後見人に送られてきたこともありましたが、ご本人さんにとって必要性が無いことを説明したうえで支払いを拒否し、解約してもらったこともあります。
やはり、この点については親族の方とも密に連絡を取り合って、相互に信頼関係を深めていくしかないと思います。
以上、成年後見人等の選任に関するメリット・デメリットでした。