はなみずき通信

「写し」はコピーではない…?

先日法務局に行った時に、「住民票の写し」と言われたので住民票のコピーを持って行ったところ受付されなかったという方がいらっしゃいました。

お気持ちは十分理解できるのですが、残念ながらコピーだけでは受付がされないため、役所から交付された証明書そのものが必要になります。

 

書類には、「原本」、「謄本」、「抄本」、「写し」などいろいろとあり分かりづらいので、今回は各種書類等についてまとめたいと思います。

 

 

 

1 原本

 

効力を持った書類等オリジナルの書類そのものが原本になります。

例えば、契約書に双方の署名押印があればその紙が原本となります。もし2通の契約書を作成すれば2通とも原本となります。

 

登記簿であれば、法務局に保管されている紙の登記簿が原本となりますが、現在はデータ化されているため、少し変な感じがしますがそのデータ自体が原本となります。

 

公正証書であれば、公証役場にて署名押印した紙が原本となりますし、裁判の判決書なども裁判所にて裁判官の署名押印がしてある判決書が原本となります。

 

戸籍や住民票であれば、役所にて住民の情報を記載し保管してある紙そのものが原本となりますが、登記簿と同様にその多くが現在はデータ化されているため、そのデータ自体が戸籍や住民票の原本となります。いずれにしても、通常は役所の担当者以外の人が原本を目にすることはほとんどありません

 

 

2 謄本と抄本と写し

 

「謄本」とは原本の全部をコピーしたものであり、「抄本」原本の一部をコピーしたものになり、「写し」謄本と抄本を合わせたものです。また、原本を保管する人が原本と同一のものであることを証明した書類が「認証ある謄本(抄本)」となります(もっとも、「認証ある」については通常は付けません。)。最近は、役所が作成した謄本や抄本は「全部証明書」「一部証明書」という言葉に変わってきておりますが、意味としては同じです。

例えば、「戸籍謄本→戸籍全部事項証明書」「登記簿抄本→登記事項一部証明書」という感じです。

 

なお、住民票については「住民票謄本」「住民票抄本」という言い方も間違いでは無いのですが、「住民票の写し」という言葉の方が通用しており、この言葉が誤解を招いています。

上記のとおり「住民票」というのはあくまで役所に保管されている原本(紙やデータ)のことであり、役所から交付されるのはその「写し」となりますので、役所から交付された証明書たる書類は「住民票の写し」となります

もし、役所から交付された住民票の写しをコピーしたのであれば、それは「住民票の写しの写し(コピー)」になりますので証明書になりません…。

 

なぜこのような分かりにくい名称なのかというと、住民票に関する住民基本台帳法に住民票の謄本と抄本のことを「写し」と表現しているからです。ちなみに、戸籍法においては「その戸籍の謄本」という表現が使われています。

 

 

3 正本

あまり聞きなれない言葉かと思いますが、謄本の一種として法令の規定に基づいて権限のある者(裁判所書記官や公証人等)によって作成され特別な効力が与えられた書類「正本」といいます。

私どもが関与する書類としては、「判決正本」「公正証書正本」が多いかと思います。「判決謄本」や「公正証書謄本」も存在します。

 

正本は、それ自体が効力を持っており、具体的には判決正本や公正証書正本によって強制執行の申立てや登記申請を行うことができます(判決謄本や公正証書謄本では強制執行や登記申請はできません。)。

正直なところ、これ以外に正本でなければダメだというシーンは思い浮かびません。

 

なお、公正証書遺言を作成された場合、公証役場からは公正証書遺言の正本と謄本の2通が交付され、遺言執行者が正本を遺言者または相続人や受遺者等が謄本を保管することが多いと思います。これは将来遺言の効力が生じたときに遺言執行者が遺言の内容を実現するために効力のある正本を保管する必要があるためです(ただし、遺言に関しては実際には謄本でも登記申請は通りますし、金融機関も解約してくれるところが多いと思います。)。

 

以上、少しわかりにくい「写し」に関してでした。