相続に関すること

相続回復請求権と時効取得(最高裁判決)

今週、相続に関する最高裁判決がありましたので、備忘録も兼ねてまとめておきたいと思います。ただ、実際に遭遇するシーンはあまり多くないものと思われます。

 

 

1 前提情報

最高裁判決を読むためには専門的な言葉が出てくるため、まずはその点について説明いたします。

 

(1)表見相続人

本当は相続人ではないのに、相続人のような立場で財産を取得している人です。

具体的には、本当は子どもではないのに誤って出生届が出された人、結婚して配偶者の立場になっていたものの婚姻が無効になった人、相続欠格に該当する人などになります。

また、相続人ではあるものの本来相続できる分よりも多くの財産を勝手に相続している場合も表見相続人と呼ばれることがあります。

 

(2)真正相続人

いわゆる普通の相続人であり、上記の表見相続人との対比で真正相続人と呼ばれます。

 

(3)相続回復請求権(民法884条

本来は真正相続人が取得できる遺産を表見相続人が所有していることがあるため、真正相続人が表見相続人に対して遺産を返してもらうことができる請求権となります。

また、真正相続人であっても本来取得できる分以上に相続してしまっている場合には、他の真正相続人から相続回復請求をされることもあります。今回の判決はこの部分になります。

相続回復請求権は、真正相続人が行使できることを知った時から5年間または相続開始時(被相続人が亡くなったとき)から20年で時効により権利行使ができなくなります。

 

(4)時効取得(民法162条

こちらは相続とは直接関係ない制度であり、動産や不動産を自己のものと思って10年以上占有した場合は、もし他人の所有物だったとしても自分のものになるという制度です。

ただし、占有開始時にまったく過失がなく占有している場合は10年でOKですが、過失がある場合や悪意の場合は20年の占有が必要となります。

 

 

2 事案の概要

(1)甲さんが亡くなりましたが、相続人は子であるAさんしかいませんでした。

(2)Aさんは、甲さん名義の不動産について、相続を原因としてAさん名義に登記をし、甲さんが死亡した翌日からAさんは当該不動産を占有していました。

(3)甲さんが亡くなってから約15年後に甲さんの遺言書が見つかり、そこには甲さんの財産は子であるAさんに加えて、親族(相続人ではない)であるBさんとCさんも含めて3名で等分して分与する旨の記載がありました。

(4)そこで、BさんとCさんは、Aさんが上記の「真正相続人であっても本来取得できる分以上に相続してしまっている場合」に該当するので、不動産の2/3を返還するよう相続回復請求権を行使しました。

(5)一方、Aさんとしては、「占有開始時にまったく過失がなく10年占有しているので、仮にBさんとCさんの権利があったとしても時効取得により完全に自分のものになっている」と反論しました。

 

3 最高裁判決

上記について、令和6年3月19日に最高裁判所が下記のとおり判決を出しました。

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)

 

詳細は上記の判決文をご覧いただければと思いますが、大事な部分は下記のとおりとなります。

 

相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。そして、民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(最高裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)ところ、上記表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。
以上によれば、上記表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。このことは、包括受遺者が相続回復請求権を有する場合であっても異なるものではない。したがって、被上告人は、本件不動産に係る上告人Y1及びAの各共有持分権を時効により取得することができる。

 

4 まとめ

上記の最高裁判決を簡単にまとめると、

 

①相続回復請求権と消滅時効の優劣を定めた規定は無い

②相続回復請求権に消滅時効が定められた趣旨は早期に法律関係を確定するためなのに、相続回復請求権が消滅時効にならないと時効取得できないとなると逆に法律関係が確定するのが遅れてしまって相続回復請求権に時効が定められた趣旨に反することになる。

 

という2つの理由により、時効取得の方が勝ったということになります。

 

この判決で大事なことは、上記のような細かな事情ではなく、「遺言があるのであれば、その旨をちゃんと相続人に話をしておいてください!」ということになります。

そもそも、上記のような裁判になったのは、甲さんが亡くなって約15年も経ってから遺言書が見つかったのが発端であり、最初から遺言書があるのが分かっていればこんなことにはなりませんでした。

なので、遺言の内容までは言わなくても良いので、少なくとも遺言があること、そしてその遺言がどこにあるかについては必ずお話しいただいた方が良いですよ。