相続に関すること

親と子が相続人のときに自宅をどなた名義に登記するか

よくあるケースとして、お父さん名義の自宅があり、お母さんとお子さん2名(長男と長女)の合計3名が相続人である場合に、「ご自宅をどなた名義にした方が良いか」というご相談をお受けすることがあります。

少なくとも法的な決まりはないので相続人であればどなたの名義にしていただいても良いのですが、様々なパターンのメリット・デメリットを記載いたしますので参考にしていただければと思います。

 

 

1 お母さん名義で相続登記をする

 

感覚的にはこのパターンが一番多いように思います。一般的に、ご自宅にはお母さんがその後もお住まいになることが多いかと思いますので、その後も居住をされるお母さん名義に変更するというのはスムーズかと思います。

 

【メリット】

①居住している方の名義になるので今後生活するに当たってトラブルが起こりなりにくい

②子どもの間で相続に関する紛争が生じていたとしても、少なくともお母さんが居住する自宅についてはとりあえずお母さんの名義にしておくという点については相続人間での合意が得られやすい

③お母さんには相続税の配偶者控除として1億6000万円を控除できるので、他の遺産と合わせて遺産が高額な場合には相続税を抑えられる

 

【デメリット】

①将来的にお母さんが亡くなった場合は、改めて相続登記が必要になる。

②もしお母さんが認知症等になってしまった場合に売却等が難しく成年後見等の手続が必要な場合がある。

 ※お母さんがお元気なときであれば、将来のトラブルを回避するため任意後見や家族信託をご検討いただくこととなります。

 

2 お子さんの単独名義で相続登記をする

将来的に当該ご自宅を相続するお子さんが決まっている場合や、そもそもお母さんと同居されているお子さんがいらっしゃる場合には、この時点でそのお子さん名義に変えるということもあります。

 

【メリット】

①居住している方の名義になるので今後生活するに当たってトラブルが起こりにくい

②子どもの間で相続に関する紛争が生じていたとしても、住んでいる方の名義にしておくという点については相続人間での合意が得られやすい

③仮に売却の必要が出てきたとしても、お子さんの名義にしていれば売却をスムーズに進めることができる

④すでにお子さんの名義になっているので、将来的にお母さんが亡くなったときに相続登記を行う必要が無い

 

【デメリット】

①自宅以外の遺産が無い場合に、他の子ども(きょうだい)との間で合意できず登記できない可能性がある。

②自宅をお子さん名義にする代償として他のきょうだいに支払うために多額の金銭(代償金)を用意しなければならない場合がある。

 

3 法定相続分で相続登記をする

その後も継続して自宅に住まわれる場合は法定相続分で登記をすることは少ないですが、近い将来に自宅を売却する計画がある場合は法定相続分で相続登記をすることがあります

というのは、仮に売却するとしても便宜上、特定の相続人名義にしたうえで売却し、売却代金を相続人間で分けるという内容の遺産分割協議も有効に成立しますが、譲渡所得税などは当該相続人のみに課されるため、その後の税金分を公平に負担する計算等がかなり面倒です。一方、法定相続分にて登記をしたうえで売却をすれば、譲渡所得税等の課税についても持分に応じてそれぞれに課されるため相続人間での不公平は無くなります。もっとも、相続人全員が確定申告をしなければならないという可能性もありますので一概にどちらが良いかの判断は難しいところです。

 

また、法定相続分での相続登記は相続人の一部からだけで進めることができますので、とりあえず法定相続分での相続登記をしておくことで、相続登記の義務をクリアすることができます(ただし、相続人申告登記でもクリアはできます。)。

 

【メリット】

①売却した場合の課税関係について公平である。

②法定相続分での相続登記であれば相続人の1人だけ(例えば長男だけ)で進めることができ、これにより相続人全員が相続登記の義務を果たしたことになる

 

【デメリット】

①所有者が複数名になるため、全員が協力しないと売却ができない

②もし一部の相続人だけで進めた場合は、関与していない相続人の登記識別情報通知(いわゆる権利書)が発行されない

 ※例えば、長男だけで法定相続分での相続登記を申請した場合は、お母さんと長女の登記識別情報通知は発行されません。

③法定相続分での登記完了後に遺産分割協議や調停などがまとまった場合は、その内容に合わせるための所有権更正登記が別途必要になる。

 ※例えば、お母さん1/2、長男と長女が1/4ずつとして登記された後に遺産分割協議がまとまって長男が単独で所有することになった場合は長男単独名義に更正登記をする必要があります。

 

 

 

上記以外にも「お母さんと長男の共有での相続登記」や、「長男と長女で共有する内容の相続登記」ということも理屈上は考えられますが、件数としてはあまり多くないと思います。

前者であれば、お母さんと長男が今後同居するというケースで考えられますし、後者の場合だとお母さんがお元気なうちはこのままだけど、将来的にお母さんが亡くなったときに売却して、その売却代金を折半して分けるという場合に考えられます。最近も後者の相続登記を申請しております。

 

以上のとおりいくつかのケースを記載いたしましたが、どの方法が良いかはそれぞれのご家族の事情によって異なりますので、ご遠慮なくご相談いただければ幸いです。