相続に関すること

夫婦相互遺言について

本日、お子さんがいらっしゃらないご夫婦の遺言書の文案作成及び公正証書遺言の証人の立会いをしてまいりました。

基本的に、すべての方に遺言書を作成していただいた方が良いと思っておりますが、特にお子さんがいらっしゃらないご夫婦においては作成していただいた方が良いどころか、作成しないと大変なことになるとすら思っております。

 

今回は、このようなお子さんがいらっしゃらない場合に作成する「夫婦相互遺言」についてまとめたいと思います。

 

 

 

1 夫婦相互遺言とは

そもそも夫婦相互遺言という法律用語は存在しないのですが、一般的には夫婦ともに「私が先に死んだら、私の財産はすべてあなたに相続させます。」という遺言書を作成することを指します。

注意点として、第975条に「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定されておりますので、夫婦で1通の遺言書を作成するのではなく、夫分と妻分とで合計2通作成することになります。

こうすることにより、ご夫婦のどちらが先にお亡くなりになったとしても、残された方がすべて相続し、今後も自宅に居住し続けることができますし、亡くなった方の預貯金なども使うことができます。

 

2 なぜ夫婦共同遺言が必要になるのか

お子さんがいらっしゃらないご夫婦において、どちらかが先にお亡くなりになると、残された夫や妻だけが相続人になるというケースは極めて少なく、亡くなった方のご両親や祖父母が相続人になる可能性があり、それらの方がいらっしゃらない場合は、亡くなった方の兄弟姉妹や甥姪が相続人になります。一般的には、亡くなった方のご両親や祖父母の方が先に亡くなっていることが多いと思われますが、兄弟姉妹やその子である甥姪が全員亡くなっているというケースは極めて少ないため、残された夫や妻は亡くなった方の兄弟姉妹や甥姪と遺産分割協議をしなければ一定額を除き、預貯金を引き出すことさえできなくなってしまいます

もちろん、兄弟姉妹や甥姪と良好な関係が築かれていて、すぐに話し合いがまとまるということであれば問題ありませんが、中には「数十年も会ったことない兄弟姉妹」、「一度も会ったことすらなく名前も初めて聞いた甥姪」という方がいる可能性もあります。

このような場合でも、夫婦相互遺言があれば、兄弟姉妹や甥姪の承諾やハンコなど一切なく、自由に使うことができます

 

3 遺留分の心配はほとんどいらない

遺言書で配偶者に全財産を相続させる遺言を作成した場合、多くのケースで遺留分が問題になります。

この点、亡くなった配偶者のご両親などがご存命だった場合には遺留分が問題になることになりますが、上記のとおり、現実的にはすでにお亡くなりになっていることが多いためあまり問題になりません。

そして、兄弟姉妹や甥姪に関しては遺留分が無いため、兄弟姉妹や甥姪の存在を気にすることなく全財産を取得すれば良いことになります。

 

 

4 予備的遺言は作成しておいた方が良いと思います

夫婦相互遺言は、互いに自分が先に亡くなった場合は相手に全財産を相続してもらうという遺言になりますが、当然ながら自分の方が後に亡くなることもあり得ます。

その場合、「配偶者に全財産を相続させる」という遺言は、その配偶者が亡くなってしまっているので無効になってしまい、遺言がない状態になってしまいます。そこで、まずは自分が先に亡くなった場合は配偶者に全財産を相続させるという条項を作成し、その後の条項に、「もし配偶者の方が自分より先に亡くなっていた場合は、私の財産は〇〇さんに遺贈します。」という条項を作成することをお勧めいたします。これにより、せっかく作成した遺言が無駄にならず、ご自身の財産をご希望の方に引き継いでいただくことができます。

もちろん、そのような状況になったときに改めて検討したいということであればそれでも全然構わないのですが、万が一、その時に認知症などになっていた場合は遺言書を作成することができなくなってしまいます。また、予備的遺言を作成したとしても、その後の事情の変化に応じて予備的遺言を撤回して、別の方に遺贈するという遺言を改めて作成することもできますので、夫婦相互遺言を作成する際には念のため予備的遺言も作成しておいた方が安全かと思います。

 

以上、夫婦相互遺言についてでした。