はなみずき通信

専門職が受遺者になれるのか

私どもが業務として遺言書の作成や遺言執行に関与させていただくことがありますが、「先生に相続してほしいから養子にならない?」、「遺言で先生にも財産をあげるわ」などと仰っていただくことがあります。お気持ちとしては大変ありがたいのですが、受遺者や受贈者になるなどして、遺言書の作成に関する報酬や遺言執行者としての報酬など、行った業務の報酬や実費としていただく費用以外に金銭等の財産をいただくことは絶対にありません

 

今回、この点についてまとめたいと思います。

 

 

1 受遺者になる人に法律上の制限はありません

遺言によって、相続人ではない第三者たる個人や法人に財産を渡すことは可能であり、そのような行為のことを遺贈といいます。また、遺言によらず、亡くなった際に財産を贈与する旨の契約のことを死因贈与と言います。いずれも、財産をお持ちの方が亡くなった際には第三者に財産を渡すというものです。

また、遺贈を受ける人のことを「受遺者」、贈与を受ける人のことを「受贈者」といいますが、誰が受遺者または受贈者になっても良いため、遺言書作成に関与した弁護士や司法書士などの専門職が受遺者や受贈者になることについて法律上の制限はありません。

 

ただし、各士業における倫理規定によってそのような行為は禁止されておりますし、私が加入しているリーガルサポートにおいても、執務規則において通常生じる報酬以外の金銭等の授受を禁止しております。

 

したがいまして、法律上は可能であるとしても、実際には受遺者や受贈者になる専門職はほぼいないですし、万が一そのような行為を行った場合は、懲戒処分を受ける可能性があります。

 

2 裁判例

倫理や各種団体の規定によって禁止されていたとしても法律上は制限がないため、専門職が受遺者や受贈者になっていることがあります。遺言書や死因贈与契約書が作成されてしまえばすべて有効になってしまうかというとそうではなく、公序良俗等を理由として無効と判断されているケースが多くあります。

 

(1)身元保証会社であるNPO法人に全財産を死因贈与

 

年配の方が施設に入所する際に、身元保証をしてくれたNPO法人に対して全財産を死因贈与するという契約書を作成し、ご本人が亡くなったあとに預貯金の払戻し請求を受けた金融機関が不審に思ってその支払いを拒否したところ裁判になったケースがあります。これについて裁判所は、「契約は不必要で不明確」、「預金全額を受け取るというのは明らかに対価性を欠き、暴利と言わざるを得ない」などを理由として遺言は無効であると判断しました(名古屋高裁令和4年3月22日判決)。

 

(2)顧問弁護士に全財産を遺贈

顧問弁護士が遺言者の全財産(数億円)の遺贈を受けるという遺言について、「ご本人の判断能力や思考力、体力の衰えや同人の孤独感などを利用して、依頼者の真意の確認よりも自己の利益を優先し、弁護士としてなすべき適切な説明や助言・指導などの措置をとらず、かえって誘導ともいえる積極的な行為に及んだといえるもので、著しく社会正義に反する。」とし、公序良俗に反するものとして遺言は無効と判断されました(大阪高裁平成26年10月30日判決)。

 

3 専門職等への遺贈等の話があった場合は依頼を取りやめてください

 

大多数の専門職は自身を受遺者にするような遺贈や死因贈与契約をするような打診をすることはありません。万が一、そのような打診を受けた場合、ごく少数の倫理に反する行為を行う専門職であると考えられているため、依頼は取りやめられた方が良いと思います。また、上記のとおり専門職ではなく、身元保証会社や施設そのものに遺贈等を迫られるケースもありますが、この点は十分ご家族とご相談されてからの方が良いと思います。

なお、専門職等からの打診ではなく、自発的に専門職に遺贈されたいというお考えがあったとしても、ご自身がお亡くなりになった後で相続人と専門職との間で遺言の有効・無効のトラブルが生じる可能性が高いので、そのお気持ちだけ頂戴し、ご親族の方への遺贈や国連の各種団体等への寄付などをご検討くださいますようお願いいたします。

 

以上、専門職が受遺者になれるかどうかについてでした。