成年後見・任意後見に関すること

後見人の交代

つい先日、数十人の方の成年後見人や保佐人、補助人(以下合わせて「後見人等」といいます。)などをされていた司法書士がお亡くなりになりました。この場を借りまして謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

後見人等がお亡くなりになると、当然ながらその方は後見人等ではなくなります。また、後見人等の相続人が当然に後任の後見人等に就任することもありませんので、一時的に後見人等が不在となってしまい、ご本人さんの生活に支障が出てしまう可能性があります。

今回の司法書士が亡くなったケースにおいては数十人の方に影響が出てしまうため、成年後見等に関する司法書士の団体であるリーガルサポートが主導し、リーガルサポートの会員である司法書士数十人が集まって亡くなった方が担当されていた方々の引継ぎを行いました。この中に私も入っており、1名の方の成年後見人を引き継がせていただく予定です。この「予定」というのは、後任の後見人等として誰を選任するかはあくまで裁判所の審判によるため、後日、裁判所の審判が出ることによって正式に私が後任の成年後見人ということになります。

 

このようにいったん就任した後見人等が交代することがありますので、今回はこの交代についてまとめたいと思います。なお、一言で「交代」と記載しておりますが、実際には後見人等が退任し、新たに後任の後見人等が裁判所から選任されるという2つの手続によって交代となります。

 

 

1 後見人等の退任

後見人が退任する事由としては、下記のとおり定められております。

 

(1)死亡

上記の司法書士の事例と同様であり、お亡くなりになってしまうと当然ながら後見人等としての職務を遂行することができなくなりますので退任となります。

 

(2)辞任

何らかの事情で後見人等としての職務を遂行することが難しくなり、自ら後見人等を辞めたいというものです。ただ、辞任については裁判所の許可が必要であり、自由に辞任できるものではなく、裁判所が許可をするような正当な事由が必要となります。

親族後見人の方としてよくある正当事由は、後見人等が高齢になったり、後見人等のご自身が病気などで後見人等としての職務が遂行できなくなった場合や転勤などで遠方に転居せざるを得ないような場合です。また、専門職後見人の理由としてあるのは、上記に加えて、当該専門職を廃業する(弁護士・司法書士などの登録を抹消する)という理由もあります。

 

なお、特別な辞任として、当初から予定されている辞任というのもあります。これは、親族後見人と専門職後見人の2名が同時に選任され、専門職後見人が一定の手続を終えたときに専門職後見人だけが辞任するというものです。よく見かけるのは、後見制度支援信託の手続を終えた後に辞任するというケースであり、実際に私も後見制度支援信託の手続を終えて辞任をしたケースが何件もあります。

 

(3)解任

これは極めて良くない退任の理由であり、後見人等が横領などの不正を行ったため、裁判所から解任されるというものです。残念ながら年に数回程度、弁護士や司法書士といった専門職後見人がご本人さんの財産を横領して解任されるというケースがあります。当然ながら、後見人等を解任されるのみならず、横領等での刑事責任、損害賠償等の民事責任、そして専門職として業務禁止などの懲戒処分もありますので、専門職としては今後生きていけなくなります

 

(4)欠格事由

未成年者や破産者、ご本人に対して訴訟を提起した者などは後見人等になることができません。事後的に未成年者になることはあり得ませんが、後見人等が破産してしまった場合には当然に後見人から退任することになります。

 

(5)能力回復

後見人等が選任されるということは、認知症や精神疾患等によってご自身で判断することが難しい状態になったからです。逆に言えば、ご自身で判断できる状態にまで回復された場合は後見人等は不要となりますので、後見開始の審判が取り消されることになります。例えば、長期間意識不明だった方が後見人等が選任された後に意識が回復するということが考えられます。

また、完全に回復しないまでも成年後見から保佐になるということは十分あり得ることかと思います。ただ、私自身はこのようなケースは見聞きしたことがありません。

 

2 後見人等の選任

上記のうち、(1)~(4)の場合においては、当初から複数名の後見人が選任されていない限り後任の後見人等を選任する必要があります。このうち辞任については、比較的時間の猶予がありますので、自分が辞任することによって後見人等が不在になる場合は、新たな後見人等の選任を裁判所に申し立てなければなりません(民法845条)。また、辞任以外の事由によって後見人等が不在になる場合であっても、裁判所は利害関係人等(ご本人さんの親族など)の請求や、裁判所自身の判断による職権によって新たな後見人等を選任することになります(民法843条2項)。

 

このように後見人等が交代することがあるのですが、私自身は当初から辞任が予定されているケース以外では辞任したことはなく、解任されたことも他の事由に該当したこともありませんので、実際には後見人等が交代するというのは珍しいことかと思います。

 

以上、後見人等の交代についてでした。