相続に関すること

相続放棄等の熟慮期間を延長する法律が成立しました

人が亡くなった場合,その方の配偶者(夫または妻)や子ども等が亡くなった方の財産を相続します(民法887条等)。 

 

亡くなった方の財産がプラス財産だけであれば良いのですが,負債(借金)等のマイナス財産も相続するため,亡くなった方が借金だらけだった場合には,相続人としては相続したくない(相続放棄)ということもあるでしょう。また,プラス財産とマイナス財産が混在しており,プラス財産の方が多ければ相続したいけど,マイナス財産の方が多い場合はプラス財産の分しか払いたくない(限定承認)ということもあるかと思います。

 

ですので,この相続をするか否かについて調査し,検討する時間が必要になるんですが,民法上は,被相続人が亡くなってご自身が相続人であることを知った日から3ヶ月以内に決めない場合には,自動的にすべて相続したことになるという規定になっています(民法915条)。 

 

この3ヶ月という期間が長いのか短いのかはわかりませんが,先の大震災で亡くなられた方の相続人の方々にとっては,この3ヶ月という期間はあまりにも短すぎるという指摘がありました。また,法律上は,この3ヶ月間に決められない場合は,家裁で手続きすることで判断するまでの期間を3ヶ月から延ばすこともできましたが,まったく周知されておりませんでした(民法915条但し書き)。

 

そんな指摘を受け,題名の通り,「東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律」という法律が6/21付けで成立し,同日施行されました。

この法律の概要は次の通りです。 

 

1・平成22年12月11日以降に発生した相続について,平成23年11月30日までに判断すれば良い

→大震災があった平成23年3月11日以降ではなく,この日にちょうど3ヶ月を迎えることとなる,平成22年12月11日以降の相続に関することとなっています。

→平成23年11月30日までに相続放棄もしくは限定承認をしない場合は単純承認したこととなり,すべてのプラス財産,マイナス財産を相続することになります。

 

2・特例法の対象者は東日本大震災の被災者に限られます。

平成23年3月11日時点で,災害救助法が適用された市区町村から東京都を除いた地域に住んでいた相続人の方のみです。

具体的には,

岩手県

全域

宮城県

全域

福島県

全域

青森県

八戸市,上北郡おいらせ町

茨城県

水戸市,日立市,土浦市,石岡市,龍ヶ崎市,下妻市,常総市,常陸太田市,高萩市,北茨城市,笠間市,取手市,牛久市,つくば市,ひたちなか市,鹿嶋市,潮来市,常陸大宮市,那珂市,筑西市,稲敷市,かすみがうら市,桜川市,神栖市,行方市,鉾田市,つくばみらい市,小美玉市,東茨城郡茨城町,東茨城郡大洗町,東茨城郡城里町,那珂郡東海村,久慈郡大子町,稲敷郡美浦村,稲敷郡阿見町,稲敷郡河内町,北相馬郡利根町

栃木県

宇都宮市,小山市,真岡市,大田原市,矢板市,那須塩原市,さくら市,那須烏山市,芳賀郡益子町,芳賀郡茂木町,芳賀郡市貝町,芳賀郡芳賀町,塩谷郡高根沢町,那須郡那須町,那須郡那珂川町

千葉県

千葉市美浜区,旭市,習志野市,我孫子市,浦安市,香取市,山武市,山武郡九十九里町

新潟県

十日町市,上越市,中魚沼郡津南町

長野県

下水内郡栄村

にお住まいだった方々です。

 

なお,注意点として,上記特例法が適用されるのは,相続人の方が上記地域に住んでいた場合に限られます。つまり,お父さんが宮城県内にお住まいだったところ,先の大震災で亡くなった場合,相続人たる子どもが名古屋市に住んでいた場合には上記特例法の適用は受けませんので,本日時点で相続放棄等はできないことになります。逆に,名古屋市に住んでいたお父さんが平成22年12月11日以降に亡くなったが,相続人たる子どもが平成23年3月11日に宮城県内に住んでいた場合は,特例法の適用を受けますので,今年の11月30日までに判断すれば良いということになります。

 

3・相続人が複数いる場合でも,特例法の適用を受けるのはその方のみです。

例えば,宮城県内にお住まいだったお父さんが先の大震災で亡くなった場合,大震災の日にその相続人たる子どもAは福島県に住んでおり,子どもBは名古屋市に住んでいた場合,特例法の適用を受けるのはAのみです。したがって,Aは未だ相続放棄等をすることはできますが,Bはできません。

 

4・単純承認をしていたり,法定単純承認にあたる場合は相続放棄はできません。

 例えば,お父さんが先の大震災で亡くなり,子どもが宮城県内に住んでいた場合には特例法の適用を受けますが,子どもがお父さん名義の不動産を売却するなど,単純承認したと同視しうる場合は相続放棄等をしないという意思表示であると見ることができますので,法定単純承認として相続放棄をすることはできなくなります(民法920条,921条)。

 

5・判断できない場合はさらに延長の手続を取ることができます。

上記の通り,家裁において3ヶ月の期間を延長することができる旨記載しておりますが,これは特例法にも適用されます。したがって,平成23年11月30日が迫っていても未だ判断することができないという場合には,家裁で手続をすることによって期間の延長をすることができます

 

これらの詳細は,法務省サイトにも記載がありますので,こちらも併せてご覧いただければと思います。

法務省サイト