遺言のススメ
相続の手続を行う場合,亡くなった方の戸籍関係や住民票関係を各地の役所から取り寄せることになります。その理由は,「相続人を確定するため」ということになりますが,戸籍を見ると相続とは関係ない部分でも様々な人間模様を戸籍から読み取ることができます。
これまでに見た中では,①5回くらい結婚・離婚を繰り返しお亡くなりになったときは独身だったり,②養子縁組をしたかと思えば,その後離縁(養子の解消)をし,また同じ人と養子縁組をして今度は裁判で離縁していたり,③はたまた婚姻無効の訴えで婚姻関係が無効になるなど,戸籍を見るだけでその方の人生の一部をかいま見ることができます。一方,住民票はあくまで「住所がどこにあった」という証明書に過ぎませんので,あまり人生模様を読み取ることはできません。
実際には上記のような特殊な事情はなかなか無いのですが,比較的よくあるケースとして,①亡くなった方が男性で,妻の知らない子を認知していた,②実は夫に離婚歴があり,前妻との間に子どもがいた,というケースで,ともに男性が死亡→妻及び子どもが相続人→妻や子どもが知らない別の女性との子どもが出てきてビックリ,というケースです。
この場合に,よく言われるのが,「前妻の子ども(もしくは認知した子ども)には相続させたくない」ということです。確かに,まったく顔も知らないような人が突然出てきて「相続権あるんで遺産ちょーだい」と言われようであればそのように思われる気持ちはわかりますが,ほとんどのケースで,その前妻の子ども側も父親が亡くなったことを知らないので,まずはその事実をお知らせすることから始まります。その後に,遺産については放棄して欲しいなり,幾ばくかのお金を渡すという内容の遺産分割をすることになります。
こちらサイドとしては,できれば相続放棄をして欲しいとは思っていますが,相続のことを知らされた方からすると,みすみす大金をつかむ可能性があるのでやはりなかなか相続放棄などはしてもらえません。ですので,大体のケースでお金で解決していると思われます。
もっとも,知らない人同士だと自分の意見の言い合いになり,話し合いではまとまらないこともあります。とすると,遺産分割調停なり,審判なりといった裁判手続をしなければなりませんが,遺産分割で揉めるようなケースだと遺産にもよりますが弁護士さんの報酬だけで数十万円から100万円単位になってきますので,かなり遺産が目減りしてしまいます。
ですので,可能な限り話し合いでまとまるよういつも願っています・・・。
なお,一番良いのは,やはり遺言です。亡くなった方が遺言を書いていればどのような内容でもそのとおり遺産を分けることになりますので,争いが起こる可能性がかなり低くなります(ただし,遺留分侵害がある場合には減殺請求権の問題が残ります。)。
特に自筆証書遺言は,①自筆で書く,②署名押印,③日付,④わかりやすくどのように遺産を分けるか書く,ということを満たしていれば遺言として成立しますので,かなり簡単に作ることができます。「自分の死んだ後のことを今から書くなんて縁起でもない」と思われるかもしれませんが,万が一のときに残された方の人間関係が壊れてしまう恐れがあることを考えると「備えあれば憂いなし」ではないかと思います。
最近は,遺言作成キットなるものが売れているそうですので,この際に一度書いてみてはいかがでしょうか。もちろん,当事務所でも遺言書作成に関するご相談を承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。