嫡出子と非嫡出子の相続分の差は違憲(ただし,高裁決定)
先日,嫡出子と非嫡出子の相続分についての高裁決定が出ました。今日はこの点について書いてみたいと思います。
そもそも,嫡出子と非嫡出子とは一体なんぞや?という方も多いと思いますので,まずはここから記載していきます。
「嫡出子(ちゃくしゅつし)」とは法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子(民法772条)であり,非嫡出子(ひちゃくしゅつし)とは未婚の男女から生まれた子であって認知された者(民法779条)です。
この点,嫡出子であるためには,子どもの両親が「法律上の婚姻関係」になければなりませんので,いわゆる内縁関係の間に生まれた子については嫡出子ではありません。
また,未婚の男女の子が非嫡出子となるためには親の認知が必要ですので,父親から認知されていない子は父親の非嫡出子とはならず法律上は他人ということになります(ただし,母子間については棄児でない限り,認知がなくても分娩と共に非嫡出子関係が発生するとしています。)。
さらに,認知された後に両親が婚姻した場合は「準正」といって嫡出子の身分を取得します(民法789条)。なお,嫡出子たる身分は一度取得すれば,一生失うことはありません(その後両親が離婚しても非嫡出子にはなりません)。
以上から,婚姻関係にある子であれば嫡出子しかあり得ませんので問題ありませんが,未婚の男女の子が嫡出子の身分を取得するためには,出生(この時点では他人)→認知(この時点で非嫡出子)→婚姻(準正により嫡出子)という手続を踏む必要があります。
この嫡出子と非嫡出子の間の大きな差として相続分に違いがあることが挙げられます。
民法900条4号但し書きに「嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一と(中略)する。」と規定されています。
この点について例を挙げると,
①A男がB女との間にC子をもうけたがA男とB女は結婚していない。ただし,A男はC子を認知している。
②A男はB女と別れ,その後A男はD女と結婚し,その間にE子が生まれた。
③A男死亡。
④A男の死亡時の財産は1200万円だった。
とします。
このとき,A男の相続人は,A男の妻であるD女及びA男の子どもであるC子とE子になります。
この場合,法定相続分によれば,配偶者は遺産の半分をもらえますのでD女の相続分は600万円となり,さらにC子とE子に関してはC子がE子の半分と900条4号に規定されていますので,C子が200万円,E子が400万円という結果になります。
このC子とE子の差については同じ子どもでありながら,子どもとしては自分ではどうしようもない嫡出子,非嫡出子という立場によって相続分に差を付けられるのは,不当な差別であるとして何度も訴えが起こされていましたが,最高裁はことごとく合憲との判断を示していました。
一番最近の最高裁判例は平成7年となりますが,このときも民法が法律婚制度を設けている以上,合理的な根拠はあるとしています。
その後,この最高裁判例が覆ることなく進んでいたのですが,つい昨年,この点について最高裁大法廷で審理されることになりました。
最高裁が大法廷で審理するということは,過去の判例が見直される可能性が出てきた(裁判所法10条3号)ということになりますのでかなり注目していたのですが,審理が開かれる前に当事者が弁護士に内緒で和解して訴訟が終わるという珍事が起こってしまい,平成7年の最高裁判決は維持されたままとなりました。
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そして,今回出たのが,大阪高裁の決定で,嫡出子と非嫡出子の相続分の差について,「合憲とした平成7年の最高裁判決から,家族生活や親子関係の実態は変化し,国民の意識も多様化しており,差を付けるのは平等原則に反する」として違憲である旨の判断をしました。
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この大阪高裁決定は最高裁サイトに載っていないのでどのような内容なのか正確にはわかりませんが,報道を見る限りでは極めて妥当な結論ではないかと思います。
上記にもありますが,嫡出子なのか非嫡出子なのかは,親の都合(婚姻関係にあるか否か)であって,子どもに何ら落ち度はありません。にも関わらず,非嫡出子が他の嫡出子の半分しか相続できない合理的な理由は見い出し難いと思われます。
もっとも,上記大阪高裁決定は確定しているものの,平成7年の最高裁判決が覆った訳ではありません。したがって,実務としてはやはり非嫡出子は嫡出子の半分として進めざるを得ないと思います。この点については,上記大阪高裁決定のいうとおり,早く立法(国会)の方で改正していって欲しいと思います。