お葬式の費用は誰が負担するのか
人がお亡くなりになった際,多くの場合,お通夜や葬儀をひらくと思います。また,葬儀が終わった後,荼毘に付して遺骨等を保管する費用もかかります。
この費用は一体誰が負担するのか,というのが裁判になり,先日名古屋高裁で判決がありました。
事案としては,お亡くなりになった方(被相続人)の兄弟が喪主として葬儀等を行った後に,相続人である被相続人の子どもたちに葬儀費用を請求したという事案です。なお,この場合,被相続人の兄弟は相続人ではありません。
判決では,「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀継承者が負担するものと解するのが相当である。」とされております。
これをざっくり解説すると下記の通りとなります。
まず,お通夜や葬儀など,宗教的な儀式については,「追悼儀式に要する費用」とし,死体検案費用や死亡届を出すための費用,荼毘に付す費用等を「埋葬等の行為に要する費用」として2種類に分けています。
追悼儀式に要する費用については,次の順序によって費用負担するものとされています。
①被相続人が葬儀会社等と生前契約をしていた場合は被相続人(の財産)
②被相続人の相続人や関係者等の話し合いで決められた者
③葬儀を主宰した者(多くの場合は喪主)
まず,①については,被相続人自身が「私が死んだ時には,こういう葬儀を執り行って欲しい」と葬儀会社と契約する場合(生前予約)を指すと思われ,いわゆる「生前葬」ではありません。
そして,一般的に①のようなケースは多くないと思われますので,その次は,話し合いによって決めるというものです。配偶者(例えば妻)が亡くなった場合は,もう片方の配偶者(例えば夫)が葬儀費用を負担することが多いと思いますが,配偶者ではなく経済的に余裕のある子どもが負担するということもあると思います。
最後に,これらの話し合いもなされないまま葬儀が行われた場合には,葬儀を主宰した者(一般的には喪主)が負担するものとされております。なぜなら,葬儀を主宰した者がどのような規模の葬儀を行い,どのような費用をかけるかを責任をもって決定した以上,その人が負担するのが当然だからです。
上記の名古屋高裁判決の事案では,①も②も無いため被相続人の兄弟が喪主を務めて葬儀を執り行った以上,被相続人の兄弟が負担すべきとしております。
埋葬等の行為に要する費用については,祭祀を継承する者が費用負担するとされております。そもそも「祭祀」とはお墓や仏壇,神棚等のことであり,相続とは別に継承されるものとされています(民法897条)。
そして,祭祀継承者は次の順序によって決まります。
①被相続人が祭祀継承者を指定する。
②祭祀継承者の指定がない場合,慣習によって祭祀継承者が決める。
③慣習もない(明かでない)場合は家庭裁判所が決める。
したがって,被相続人がお墓等の継承者を指定していればその人が祭祀継承者になりますし,「先祖代々のお墓は長男が継承する」というような慣習があれば,その慣習によって決まることとなります。そして,このような慣習が明らかでない場合は,家庭裁判所が決めることなります。
上記の名古屋高裁判決の事案では,①も②も無いため家裁の決定に従うべきところ,現時点では家裁の決定がないのであるから,相続人が負担すべきということにはならない,として,被相続人の兄弟の請求を退けています。
なお,名古屋高裁判決では,追悼儀式に要する費用については被相続人の兄弟が費用を負担するということで決着しておりますが,埋葬等の行為に要する費用については,未だ未確定としているに過ぎませんので,今後家裁が仮に「祭祀継承者は被相続人の長男」と定めた場合には,被相続人の兄弟の請求が認められることになると思います。
死後において,相続で揉めることは多くありますが,葬儀費用となると相続人のみならず,親,兄弟,親戚と様々な人を巻き込んで揉めることになりますし,一般的に葬儀費用は百万円単位の費用がかかりますので,現実的には相続よりも揉める可能性をはらんでいます。
そうなると,生前予約をしておくのが一番良さそうですが,自分の死後の葬儀の予約というのも気持ちの良いものではありませんし,なかなか難しいところですね。