相続時精算課税制度を使っての贈与
親名義の不動産を子ども名義に変える場合,当事務所では基本的には贈与よりも相続(遺贈)をお勧めしていますが,先日ご依頼をお受けしたケースについては検討した結果,贈与としました。
相続(遺贈)のメリット
まず,一般論として下記のとおり費用的には,明らかに贈与よりも相続(遺贈)の方がメリットが大きいです。
①贈与税は110万円超の財産から発生するが,相続税は最低でも3600万円の遺産が無いと発生しない。
②贈与の場合だと不動産取得税がかかる場合があるが,相続の場合だと不動産取得税は発生しない。
③登記をする際の登録免許税は,贈与の方が相続(遺贈)より5倍(0.4%→2%)高い。
④贈与の場合は,前提として住所変更登記が必要だったり,権利証を紛失している場合は余分な費用がかかるが,相続の場合は一切不要。
ということで,本来であれば贈与ではなく,遺言書を作成して,不動産をお持ちの方が亡くなられたときに名義を変えるようお勧めしています。
しかし,今回は上記の贈与のデメリットが③以外にありませんでした。
①相続時精算課税を使えば,贈与税は非課税となり,最終的にも相続税を支払う可能性は低いため現時点で贈与しても贈与税等はかからないケースだった。
②今回取得する不動産の評価額が低く,免税点以下であったため結局非課税だった。
④住所変更も必要なく,権利書も紛失していなかった。
ということで,登録免許税が相続より高いことを除けば,贈与で名義を変えてもデメリットはありませんでした。
相続(遺贈)のデメリット
一方,相続におけるデメリットもいくつかあります。
①遺言書を作成した場合,遺言者(親)が亡くなるまでいくらでも変更が可能であるため,もらう側(子ども)としてはある意味不安定な状況になる(遺言書があっても,遺言者が亡くなるまでもらえるかどうかわからない)。
②自筆証書遺言の場合,家裁において検認手続きが必要であり,不動産をもらう人以外にも家裁から呼び出し状が届き,場合によってはそこでもめてしまう。
③亡くなった際に登記を行うため,その時に費用がかかるうえ,その時点での評価額によるため現時点では費用が確定しない。
これらの相続のデメリットと,贈与のデメリット③とを比べた時に,それくらいであれば問題ないということで,今回は贈与となりました。
なお,今回一番大きな原因となったのは,推定相続人(依頼者が亡くなった場合に,相続人になるであろう人)のうちの1名が行方不明であるという問題がありました。
遺言を書いておけば大概は大丈夫ですが,万全を期すという意味でも今回贈与をしておいて将来の紛争を防止しました。
よく「不動産の名義を変えたいんですけどどうすればよいですか?」とお問い合わせをいただきますが,ご相談される方の状況によって,贈与が良かったり,相続が良かったり,場合によっては何もしない方が良かったりと結論が大きく変わりますので,その場ですぐ回答ができないケースがほとんどです。
当事務所では,相続関係に強い税理士さんに顧問になっていただいており,また,相談料などはかかりませんのでお気軽にお問合せいただければと思います。