相続放棄

亡くなる前に相続放棄

10月1日が「法の日」であることにちなんで,10月上旬から,各地の弁護士会,司法書士会,はたまた法務省まで法の日に関する様々なイベントが行われています。 

私が所属している愛知県司法書士会においても「法の日無料相談会」と題して,各地の役所にお邪魔して法律相談会を開催していました。 

→ 愛知県司法書士会HP(すでに終了しています)

  

当事務所は長久手市にありますので,10月4日に私も長久手市役所にて相談会に参加してきました。 

クレサラ相談会や労働相談など,特定の分野に限った相談会ではなかったものの,やはりご相談内容として一番多かったのが相続に関するものでした。その中で,よくあるご相談について何回かに分けて記載していきたいと思います。 

 

親が生きているうちに相続放棄をしたい

このような内容のご相談は結構あります。一番多い理由としては「親の借金を相続したくない」というものですが,ご兄弟の関係があまり良くないため「親族との縁を切りたいから今のうちから相続放棄をしたい」という理由もあります。 

 

このご相談に関する回答としては,申し訳ありませんが「亡くなる間に相続放棄はできません。」と回答することになってしまいます。 

というのは,相続放棄とは,文字通り「相続」を「放棄」することですが,そもそも相続できる権利「相続権」というものは,親やご兄弟など,「被相続人」が亡くなって初めて発生するものです(民法882条)。亡くなっていない方の相続権は未だ発生していない以上,放棄することはできません。 

なお,勘違いされている方が多いのですが,相続放棄ができる期間は,相続が開始してから(被相続人が亡くなってから)3か月ではなく,相続が開始して自分が相続人であることを知った時から3か月となっています(民法915条1項)。 

 

したがって,仮に親が多額の借金を残し,知らない間に亡くなっており,その1年後に親が亡くなったとの理由で債権者から請求が来たとしても,その時から3か月以内に相続放棄の手続をすれば問題ないということになります。 

 

ちなみに,似たような手続として「遺留分の放棄」というものがあります。 

そもそも,遺留分とは,遺言等によっても奪えない相続人の権利となり,基本的には法定相続分の半分です。

例えば,親Aが亡くなり,子どもであるB以外に相続人がいない場合,Aの遺産はすべてBのものになります。しかし,Aが第三者に遺産の全部をあげるという遺言書を書いていたとすると,Bはまったく遺産がもらえないことになってしまいます。そこで,法律上,Bには遺留分として半分はもらえる権利を認めています。ただし,あくまで権利ですので,Bが「親の最後の遺志を尊重しよう」ということで,相続発生後に遺留分相当分を放棄するというのは自由です。

 

この遺留分の放棄については,家庭裁判所の許可を得ることで被相続人が亡くなる前にもすることができます。

ただ,遺留分の放棄ということは,あくまでプラスの財産がある場合の手続であるため,借金が多い場合にはまったく使えない手続となりますし,一般論として特別な理由(すでに相応の財産をもらっているなど)がなければならないとされていますので,あまり利用することはない手続きだと思います。

ということで,結論としては,亡くなる前に相続放棄をすることはできませんが,相続があったこと(親が亡くなったこと)を知ったあとでも十分間に合うので,今からそんなに急いで何か手続きをする必要はありません。

 

次回は,遺言についてです。