遺産分割で問題となる事項(法律とは異なる取り扱いの銀行預金編)
※平成28年12月19日追記
平成28年12月19日付最高裁判決により,預金については遺産分割協議がまとまらないと払い戻しができなくなり,特別受益の影響を受けることとなりました。
→ 預金も遺産分割の対象に(最高裁判決)
これまでもそうですし,前回の記事でも書いているんですが,被相続人の遺言書が無ければ相続人全員の同意がある限り遺産をどのように分けても良いことになっています。
法定相続分や特別受益・寄与分を加味しなくても無効になることはありません。
したがって,①最優先は相続人全員の協議,②まとまらなければ代理人(弁護士等)を選任して法定相続分等の法律の規定を加味して協議,③それでもまとまらなければ調停など裁判所を使って協議,④協議がまとまったらその内容にそって分割して終了(もしくは審判で決めてもらう)という流れになるのが一般的だと思います。
法的な権利の帰属の流れ
一般的な考えとしては,遺産分割協議がまとまるまでは誰のものでもなく,話し合いがまとまった時に誰かのものになる,という感じがします。
しかし,実は法的にはこのような流れではありません。
まず,被相続人が亡くなると相続が発生します(民法882条)
↓
その瞬間,法定相続分に応じて各相続人が相続します(民法900条)。
この際に,不動産や自動車などそのままでは分割できないモノについては法定相続分に応じて相続人全員で共有されます(民法898条)。
一方,銀行の預金や借金など数量的に分割することが可能なモノについては,相続の瞬間に法定相続分に応じて分割された金額を各相続人が相続します(民法427条)。
↓
未分割の不動産などをどのように分けるか遺産分割協議を行います(民法906条)。
↓
協議が調ったら,その協議内容に従って,相続の瞬間に巻き戻して,最初からその人が相続したことになります(民法909条)。
つまり,相続が起こった瞬間に不動産などは相続人全員のものになっており,預金などは確定的に法定相続分の割合でその相続人のものになっています。
その後,話し合いが成立すると,法律の効果として時間を戻して,最初からその人のものだったことにするということになっています。
ここで大事なことは,預金債権については遺産分割の対象とはならずに,被相続人が亡くなった瞬間に遺産は自動的に分けられるという点です。
ここから導き出される答えとして,預金債権は特別受益による修正を受けません。とすると,一人だけ多額の生前贈与を受けており,本来であれば特別受益としてもらえる分が減る方についても預金債権については何の修正も無く法定相続分通りもらうことができます。
ただ,このままではやはり不公平感がありますので,当事者が話し合いをするときに全員の合意のもとで預金債権も遺産分割協議の中で話し合うこととし,預金も含めて分けるのが一般的だと思います。
逆に言えば,いくら不公平だと叫んでも一人でも遺産分割の対象に預金は入れないという方がいらっしゃると,例え調停になったとしても預金を調停内で話し合うことはできません。
預金の払い戻し
さて,そんな預金債権ですが,銀行では法律とまったく異なる取り扱いがされています。
上記の通り,預金債権は原則として遺産分割の対象とはならず,相続の瞬間に法定相続分に応じて分割されることになっています。
具体例として,被相続人Aさんが1000万円の預金を持っていました。相続人は妻のBさん,子どものCさんDさんの合計4人です。具体的には,Bさんが半分の500万円,CさんDさんは250万円ずつを相続しています。
この場合に,Cさんにとっては250万円は確定的に自分の財産なので,Aさんが亡くなったこと及びCさんが相続人であることがわかる戸籍謄本等を持っていけば250万円については引き出すことができそうです。しかし,どの銀行でも250万円は引き出させてもらえません。
なぜこのようなことになるかというと,上記の通り,預金は原則として遺産分割の対象にはならないこととなっていますが,当事者の合意があれば遺産分割の対象とすることができるため,本当にCさんに250万円を引き出す権利があるのかどうかがわからないからです。したがって,銀行としては,遺産分割協議書か相続人全員の承諾書などを提出してもらうようにしているようです。
でも,現実的な問題として預金は法定相続分通りで良いけど,不動産など別の遺産についてまとまらず,この協議がまとまらない限りいつまで経っても預金の払い戻しができないということもあります。
ではどうすれば良いかというと,銀行相手に訴訟をするしかありません。ただ,被相続人が亡くなっており,かつ,請求している人が相続人であり,かつ,自己の法定相続分に限った払い戻しを請求しているのであれば負ける要素はまずありませんので,2~3か月はかかってしまいますがすんなり引き出すことができると思います。
※最近,一部の金融機関で取り扱いが変わり,訴訟をしなくても一部の相続人からの払い戻しに応じてくれるようになりました。
→ 一部の相続人からの預金払い戻しについて
現金の取り扱い
最後に,銀行預金と似たようなものとして,現金があります。これも預金同様,分割することが可能ですので相続と同時に当然に分割される感じがしますが,最高裁判決により現金は遺産分割協議がまとまるまでは不動産などと同様に共有ということになっています。ですので,相続人の1名が被相続人の現金を保管しており,その相続人に対し,自分の法定相続分のみ引き渡すよう請求したとしても認められません。