遺産分割で問題となる事項(使途不明金編)
去る2/1に愛知県司法書士会で,「相続登記はお済みですか月間」ということで相続に関する相談会がありました。
その相談員として何件かご相談をお受けしましたが,ご相談を受ける中でも多いのが「使途不明金」についてです。
亡くなった被相続人をAさん,その子どもでAさんと同居していた相続人をBさん,同居していない相続人をCさんとします。
よくあるケースは,被相続人と同居していないCさんが,「本当はもっと遺産があるはずだ!BがAの財産を使い込んだんじゃないか!」という場合の使い込んだとされる財産が使途不明金になります。
使途不明金があるかすらわからない
基本的にCさんの言い分としては,Bさんが被相続人であるAさんと同居していたことを利用して,Aさんの遺産を思いのまま使い込んだという主張が多くなされます。
確かに,Aさんに家賃収入や年金収入などの総収入から見て預貯金の残高が思いのほか少ないということはあろうかと思います。しかしながら,それだけをもってBさんが使い込んだことにはなりません。もしかしたら誰も知らないAさんの趣味に使っていたのかもしれませんし,もしかしたらどこかの慈善団体に寄付したのかもしれません。
したがって,そもそも使途不明金なんてものは存在しないということが多分にしてあります。
使途不明金は「不明にした」人以外わからない
では,Aさんが入院中にも関わらず,Aさんの預金から引き出されていた場合はどうでしょう。
この場合,同居のBさんが引き出した可能性が高いので,少なくともBさんはお金を引き出したことまでは認めることが多いでしょう。しかし,通常は「Aさんに頼まれて引き出しただけ」,「入院費の支払いに充てた」など,正当な理由による使途を回答されるでしょう。この場合,入院費の支払いに充てた場合は領収書などと整合性を確かめれば良いのですが,「Aさんに頼まれて引き出しただけ」と言われた場合には,Aさんが亡くなってしまっている以上,本当にAさんがBさんに依頼したのかわかりません。実際はBさんが勝手に引き出したかもしれませんしね。
ただ,今となってはBさん以外わかりません。裁判所も万能の機関ではありませんので裁判所にだってわかりません。
なので,「使途不明金がある」ということで遺産分割調停の申立てをした場合,裁判所としてもある程度Bさんに使途(入院費の支払いや葬儀費用に充てたなど)についての説明を求めますが,Bさんが知らないと言ってしまえばそれでおしまいです。したがって,遺産分割調停の申立てをしたとしても,それによって使途不明金問題が解決するとは限りません。
使途不明金を解決するには
では,どうするかというと,調停ではなく通常の訴訟をして,遺産の範囲を確定することになります。
しかし,現実的には訴訟を提起したからといってすべて解決できるわけでもありません。というのは,Bさんが収入も無いのに家や高価な自動車を買っていたり,なぜか多額の預金が増えているということになれば別ですが,一般的には証拠が無い場合がほとんどだからです。
なお,上記の例で家や自動車を買っていたり多額の預金が増えていて,Bさんが「Aさんからもらった」とか「Aさんに用立ててもらった」ということを認めれば特別受益(生計の資本)の問題となるため,遺産分割調停の中で解決することになります。
亡くなった後の不明金はアウト!
ところが,明らかにBさんが使ったと思われる使途不明金もあります。それは亡くなった後の引き出しです。
通常,金融機関は預金者が亡くなった場合,その口座は凍結されてしまい引き出すことができなくなってしまいます。しかし,そのことを金融機関に知らせていない間は現実的には引き出すことは可能です。それを利用して相続人の一部が勝手に引き出していることがあります。
この場合,Aさんより依頼を受けてBさんが引き出したということはあり得ませんので,すべてをBが取得したということでその分をBさんの相続分から控除して分割することになります。
上記の例で預金が200万円あり,Bさんが勝手に50万円を引き出したのであれば,Bさんがもらえるのは残り50万円,Cさんが100万円ということになります。
もちろん,Bさんが引き出した理由が葬儀費用などであればCさんにも負担を求めても良いと思いますが,この点はやはり協議によると思います。
いずれにしても,使途不明金については,当事者が完全に納得して解決することは無いと思います。使途不明金があると思っている相続人はどれだけ説明を受けても証拠を出されても納得しないこともあるでしょうし,逆に使途不明金が無いといっている当事者は「無い」という以外方法がありません。平行線のままです。
そして,遺産の範囲については遺産分割調停ではなく訴訟で解決すべき問題ですので,調停をやればどうにかなるという問題ではありません。
ですので,最終的には相互に歩み寄って,妥協点を見つけていくしかないと思います。