抵当権抹消登記

休眠担保の特例が使えない(根)抵当権抹消

明治時代から昭和初期くらいまでに抵当権などの担保権が設定され,全額完済したにも関わらず担保権が抹消されず,今に至るまで残っていることがあります。  
 

 

休眠担保の特例

 

原則としては,担保権者を探し出して担保権者本人から,もし亡くなっているのであれば相続人全員から関係書類を発行してもらい抹消手続をしなければなりません。
 

しかし,現実問題として,明治時代の方が現在も生きていらっしゃる可能性はかなり低く,さらにその相続人を探し出すというのも大変です。
 

したがって,そのような場合は休眠担保の特例という制度を使うことで,比較的簡単に担保権を抹消することができます。
 

詳細は,当事務所の以前のブログに記載しておりますのでこちらをご覧ください。
 

ブログ記事
 

上記の記事を簡単に説明すると,その当時設定された担保権の債権額を現在に至るまでの利息を付加して支払えば良いということです。
 

明治時代から考えると100年以上経過していますので,利息が付くとなると凄い金額になりそうですが,その当時の設定金額は50円とか500円など少額である場合が多いため,利息が付いても数百円から数千円程度にしかなりません。そして,明治時代の貨幣価値を考慮する必要はありませんので,単純に数百円から数千円のお金を供託することで抹消することが可能となっています。  
 

特例が使えないケース

 

①抵当権者(またはその相続人)が行方不明ではない
 

休眠担保の特例は,法律上,抵当権者が行方不明でなければなりません。この点,ある程度は調査をしなければなりませんので,調査をした結果,行方がわかった場合にはこの方法は使えないことになります。 
 

②弁済期から20年未満の場合
 

弁済期から20年以上経過していないと特例が使えないため,今だと平成初期以降に設定されたものについては特例が使えません。この点については,時の経過を待てばいずれ使えることにはなりますので,もう少しで20年経過するようであれば待っていただくのも一つの手だと思います。
 

賃借権や地上権など担保権ではない場合
 

特例はあくまで担保権(抵当権や根抵当権,質権など)の抹消に限られており,賃借権などの抹消にはこの特例は使えません。
 

④物の引渡し等,金銭で表示されていない場合
 

抵当権については,ほぼすべてにおいて金銭で債権額が表示されておりますが,極々稀に金銭ではない債権が表示されていることがあります。当事務所では過去に「玄米の引渡し」というものがありましたが,このようなケースでは供託ができない(いくら弁済すれば良いかわからない)ため,特例が使えません
 

⑤金額が高い場合
 

上記4つは,特例を使いたくても法律上使うことができません。しかしながら,法律上の要件を満たしていたとしても,設定金額が高額の場合には現実的に特例が使えません。例えば,平成元年に設定されたものであれば20年以上という特例を使う要件を満たしていますが,設定金額が1000万円とかだとこれに26年分の利息が付くことになりますので,数千万円を供託しなければならず現実的に支払うのは困難です。
 

以上のような特例が使えない場合,どうすれば良いかというと訴訟をして抹消することになります
 

先日,上記うち設定金額が高すぎて特例が使えないため裁判を行ったケースがありました。
 
 

 
 

上記裁判に関する担保権(根抵当権)は平成4年に設定されたものであるため,休眠担保の特例を使うこともできます。しかし,設定金額が高く,供託するためのお金で数百万円が必要となるため,現実的ではありません。そこで,裁判を行って裁判所から登記を抹消せよ,との判決をもらって抹消することになります。  
 

訴訟が開始するまでが大変だけど開始すれば比較的簡単

 

裁判を行うためには,原則として相手に書類が届かなければなりません。これは相手の反論の機会を与えないと不公平だからです。ざっくり言えば,知らないうちに裁判が行われて,知らないうちに敗訴することを避けるためです。
 

しかし,相手が行方不明の場合で裁判ができなくなってしまうとなると,今度は訴える側が困ってしまいます。
 

そこで,頑張って相手の住所を探したけど,どうしても見つかりませんでしたということを報告書の形にして裁判所に提出することで行方不明でも裁判ができることになっています。これを公示送達と言います。
 

送達についてはこちら→債権回収相談室
 

逆に言えば,公示送達さえ認めてもらえれば,相手は欠席となりますので証拠がきっちり揃っていれば基本的には負けることはありませんし,裁判自体も1回で,しかもわずか数分で結審します。なお,通常の欠席裁判と異なり証拠が不要という訳ではありませんので,裁判官に納得してもらえる程度の証拠は準備する必要があります。 
 

抹消登記訴訟に関する費用

 
 
どの程度調査が必要なのかがケースバイケースであるため,画一的な費用を設定することが困難です。また,訴訟をするに当たり収入印紙を裁判所に納めなければなりませんが,担保権の金額や不動産の価値によって大きく異なります。
ただ,これだと何も情報が無いので,ざっくりとした金額を記載するとすれば,裁判費用等の実費も含めて20万円程度から高くても50万円程度だと思います。
 

なお,弁護士さんと異なり,司法書士が代理人になれないケースが多く,その場合は所有者の方に裁判所までお越しいただく必要があります。
 

もっとも,司法書士は書類作成に過ぎませんので弁護士さんより費用はかなり安くなっており,一般的な弁護士さんにご依頼されると上記金額の倍以上はかかると思います。
 

いずれにしても,個々の事案によって大きく費用が異なるため,ご相談いただければと思います。
 

訴訟になった場合の具体的な流れについて(消滅時効を原因とした抵当権抹消登記手続訴訟)

50年以上も前の登記の抹消