抵当権抹消登記

50年以上前の登記の抹消

およそ半年がかりで,権利関係が錯綜している不動産の登記をきれいにする手続が完了しました。様々な手続を行って完了したため,今後の備忘録の観点も含めて記載したいと思います。
 

 

登記記録(登記簿)の状況

 
 

所有者はすでに亡くなった方の名義になっていました。
 

いわゆる仮登記担保として,所有権に関する仮登記が複数なされていました。
 

抵当権が設定されていました。
 

※仮登記権利者及び抵当権者は個人であり,かつ,存命であり,かつ,連絡が取れる状況にありました。
 

さらに,賃借権が設定された上で,その賃借権の転借権も登記されていました。
 

※賃借権者は個人でしたが行方不明で生死不明であり,転借権者は会社でしたが遥か昔に会社登記簿が閉鎖されており法的には存在しない会社の名義になっていました。
 

この登記を現状に合わせるための登記のご依頼をいただきました。  
 

なすべき登記

 
 
以上の状況でなすべきことは,
 

不動産の名義を相続人名義に変える

仮登記,抵当権,賃借権及び転借権の各登記を抹消する。

ということになります。
 

このうち,①は難しいことではありません。当事務所が通常行っている相続登記ですので,相続人間で話し合っていただき,どなたが相続するかを決めていただければすぐにでも登記は可能です。
 

→ 相続による所有権移転登記について
 

また,②と③については,仮登記権利者が抵当権者と連絡が付くため,登記原因証明情報や委任状,登記済証(登記識別情報)をその方からいただければ良いですし,仮に登記済証が無くても本人確認情報などを用意したり事前通知をすることで抹消登記は十分可能です。
 

→ 権利証を失くしてしまった場合
 

問題は賃借権設定登記の抹消です。 すでに会社自体が無くなってしまっているため,会社の復活など様々な手続が必要になってきます。 
 

登記名義人が行方不明になっている登記の抹消

 
 

賃借権者が行方不明ですので,上記②や③のように書類をいただいて抹消することができません。また,抵当権などと異なり,賃借権は休眠担保の特例を使って簡易に抹消することができません
 

→ 休眠担保の特例
 

とすると,基本的には訴訟によって抹消することになります。
 

また,転借権も問題でした。転借権は②と③などと同様に転借権の抹消登記を申請することもできますし,賃借権を抹消するに際して承諾書を添付して職権で抹消してもらうこともできます
 

ただ,いずれにしても転借権者から印鑑をもらう必要がありますが,転借権者は会社であり,しかも法的には存在しないことになっている会社ですので当然ながら代表者も存在せず,誰から印鑑をもらえば良いのかという話になります。
 

【賃借権の抹消】
 

まず,賃借権の抹消登記訴訟を提起しますが,現在の相手の所在がわからないので,現時点で分かっている住所(登記簿に記載されている住所)を訪ね,近隣の方に聞き込みなどを行います。これを行うことで,相手の現在の住所がわからなくても訴訟を進めることが可能となります。 

また,賃借権の抹消登記訴訟については,土地の場合は不動産の評価額が土地のみであれば評価額が560万円以下,建物のみであれば280万円以下であれば代理人として手続を進め,それ以上の金額であれば書類作成者として関与させていただくこととなり,書類作成者として関与させていただいた場合は,所有者の方(今回だと所有者は亡くなっているのでその相続人)のどなたか1名で構わないので法廷までお越しいただく必要があります。
 

この点,「法廷で難しいことを聞かれるのではないか」とご心配される方も多いと思いますが,一番件数が多い抵当権抹消登記訴訟については遥か昔の貸金ですので時効によって消滅していることにほぼ疑いの余地はなく,法的に難しい話しはまったく出てきません。さらに,相手が裁判所に来ることもほぼあり得ませんので,裁判所から難しい質問があることはまずありません。
 

今回は,140万円どころか数千万円の不動産でしたので,書類作成者として関与させていただき,相続人の一人の方に法廷までお越しいただきましたが,ものの3分程度ですべて終了となり,その1週間後には無事勝訴判決が出ました。 
 
 

【転借権の抹消】
 

会社が存在しないので,まずは会社を代表する人を探し出す必要があります。もし,見つからないようであれば裁判所に「特別代理人」もしくは「清算人」を選任してもらい,その人を相手に訴訟を起こすことになります。
 

裁判所に相談したところ,費用的には特別代理人の方が安く済むそうですので,知り合いの弁護士さんに特別代理人になっていただく予定で進めていたところ,無事会社の代表者の方が見つかりましたので,まずは会社を復活させた上でその方から転借権抹消の承諾書をいただきました。
 

ということで,勝訴判決の判決正本と転借権を抹消する旨の承諾書を添付して,無事賃借権を抹消することができました。  
 

かかる費用

 

もともと,依頼者の方は弁護士さんにご依頼されることを検討されており,見積書も出してもらわれていたようですが,今回当事務所で進めたことで数十万円以上安い報酬で進めることができました。とは言っても,何十万円単位の報酬となってしまいましたので,決して安い費用ではないと思います(弁護士さんにご依頼された場合の見積額は百数十万円の金額でした。)。
 

さらに,今回はたまたま抵当権者や転借権者である会社の代表者の方と連絡が取れた上にご協力いただけたのですが,見つからない場合も多いですし,見つかったとしてもご協力いただけないケースも多々あるかと思います。とすると,さらに時間も費用もかかりますので,古い登記は早めに抹消されておいた方が良いと思います。