裁判による抵当権抹消登記
抵当権などの担保権については、【遥か昔に登記された抵当権抹消】の各条件に該当すれば比較定期容易に抵当権等の登記を抹消することができます。その中でも【完済した証明書がない場合】の特例が一番よく用いられていますが、下記のような場合にはこの特例が使えないことになり、裁判による抵当権抹消登記をご検討いただくこととなります。
特例が使えないケース
①特例が使えないケース
完済した証明書等がない場合の特例は、法律上、抵当権者が行方不明でなければなりません。一定程度の調査をしたうえで行方不明かどうかを判断しますので、まったく連絡を試みることなく連絡先がわからないということでは行方不明とはなりません。もし、調査の結果、抵当権者またはその相続人の方の住所などが判明した場合には特例は使えないことになります。
②弁済期から20年未満の場合
弁済期から20年以上経過していないとこの特例は使えません。ただし、この点については時間が経過すれば使えるようになりますので、もう少しで20年が経過するような場合には20年経過するまで待っていただいてから特例を用いることも可能です。
③賃借権や地上権など担保権ではない場合
この特例は、抵当権、根抵当権(元本確定後)、質権、先取特権に限り適用があり、賃借権や地上権などの用益物権は特例を用いて抹消することはできません。ただし、権利が消滅していること証明する書類がある場合には、【除権決定による抹消】の特例により抹消できる場合があります。
④物の引渡し等,金銭で表示されていない場合
抵当権などの担保権は、ほぼすべてが金銭に関するものですが、まれに物の引渡しの担保になっている場合があります。この場合は支払う金額がわからないため、この特例を使うことができません。ただし、権利が消滅していることを証明する書類がある場合には、【除権決定による抹消】または【完済した証明書がある場合の特例】による抹消できる場合があります。
⑤登記されている金額が高額な場合
上記4つは、法律上、特例を使えない場合となりますが、その条件を満たしていても登記されている金額が高額である場合には事実上、特例が使えないことになります。たとえば、平成元年に債権額1000万円、利息5%と登記されている場合、債権者が行方不明であれば特例を使うことはできますが、2000万円以上を供託しなければならないため、一般的には特例を使うことは難しいと思います。
以上のように特例が使えない場合は、裁判手続によって登記を抹消することになります。
裁判による抹消登記を選ぶケース
裁判による抹消は最後の手段であるため、まずは他の手続で抹消できないかを検討し、それでも難しい場合に裁判による抹消を選択することになります。
裁判による抹消を選ぶケースは次のような場合になります。
①供託する金額が高額になってしまう場合
【完済した証明書がない場合の特例】の条件を満たしているものの、供託する金額が高額になってしまうと事実上特例を使うことができません。訴訟費用等を考慮すると、登記されている金額が20~30万円程度であれば【完済した証明書がない場合の特例】の方が費用を抑えられると思いますが、それを超えるようだと裁判をした方が費用を抑えられると思います。ただし、この点は相続人の人数など様々な要素を総合的に踏まえて判断する必要があります。
②債権者またはその相続人が多数になる場合
抵当権者またはその相続人が数十人にもなる場合には、裁判の方が確実に手続を進められるケースが多いと思います。
③抵当権者またはその相続人の協力が得られない場合
抵当権者またはその相続人と連絡は取れるものの、抹消手続にご協力いただけない場合は裁判による抹消登記以外の選択肢がありません。
③抵当権者またはその相続人の協力が得られない場合
除権決定以外の特例では抵当権などの担保権以外の抹消登記ができないため,賃借権や地上権などの抹消に関しては裁判による抹消をせざるを得ません。
裁判による抵当権抹消の流れ
裁判による抵当権抹消の注意点
- 【遥か昔に登記された抵当権抹消】については、条件を満たしていれば、かなり高い確率で抹消手続を行うことができますが、裁判による抵当権抹消登記については、相手からの反論や証拠の有無などにより抹消手続ができない可能性があります。
- 抵当権者またはその相続人の人数などにより費用が変わり、また複数の相続が生じている場合は戸籍謄本等を取得する数が多くなるため、【遥か昔に登記された抵当権抹消】と比べると費用が高くなってしまいます。
- 抵当権者またはその相続人から反論がなければ数か月で手続は完了しますが、反論があった場合には年単位で時間がかかることがあります。ただし、相手の方に対して事前に十分な説明をしますので、反論されるケースは多くありません。
- 遥か昔の抵当権の場合は債権額が数百円や数十円であるため、ほとんどのケースで司法書士が依頼者の方の代理人となって法廷に立つことができますが、債権額が140万円を超えている場合や相手から移送申立てが出て地方裁判所に移送された場合には、弁護士さんをご紹介させていただくか、当方で書類を作成のうえ依頼者の方に法廷にお越しいただく必要があります。
抹消登記訴訟に関する費用
どの程度調査が必要なのかがケースバイケースであるため、画一的な費用を設定することが困難です。また、訴訟をするに当たり収入印紙を裁判所に納めなければなりませんが、担保権の金額や不動産の価値によって大きく異なります。
ただ、これだと何も情報が無いので、ざっくりとした金額を記載するとすれば、収入印紙等の実費や司法書士の報酬を合わせて20万円程度から高くても50万円程度だと思います。
いずれにしても、個々の事案によって大きく費用が異なるため、ご相談いただければと思います。
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