相続に関すること

遺言書の日付が誤っている場合に無効になるか(最高裁判決)

自筆証書遺言(自分で紙に遺言を書く)の場合、法律上の厳しい要件を満たさなければなりません。

民法968条1項 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。

遺言書の作成については、法改正により一部は印刷したものでも良くなりましたが、基本的には遺言書の全文を自分で書かなければなりません

また、署名押印がない場合や日付が抜けている、日付は記載されているがその日が特定できない(「〇月吉日となっている」、「作成の年が記載されていない」など)、表現が曖昧である、夫婦二人分が1通で作成されているなど、自筆証書遺言の場合はいくつも無効になってしまう箇所がありますので、当事務所としては特別な事情が無い限り、公正証書遺言で作成されるようお勧めしております。

 

→ 自筆証書遺言と公正証書遺言

さて、本日上記の無効になる要素のうち、日付の記載について最高裁判決がありましたので、今回はこの点についてまとめたいと思います。

 

 

前提

遺言者Aさんは法律上の妻Bさん及びBさんとの間にできた子Cさんがいます。

しかし、Aさんには内縁の妻Dさん及びDさんとの間にできたEさんがいます。

平成27年4月13日、Aさんは入院先の病院で遺言書の全文を自署し、日付を記載し、署名を行いましたが、押印はしていませんでした。なお、内容は内縁の妻であるDさんとその子Eさんに全財産を相続または遺贈するという内容です。

同年5月10日、弁護士さんの立ち合いのもと、上記の遺言書に押印をして遺言書は完成しました。

同月13日、Aさんが亡くなりました。

Aさんの法律上の妻であるBさん及びCさんは、「遺言書に記載してある日付は4月13日だが、押印して完成したのは5月10日なのだから、実際の日付とは異なっており、遺言書は無効である。」と主張して訴えを提起しました。 

 

他の裁判例

今回の判決とは別に、過去類似する事件として以下のようなものがあります。

遺言者が全文の自書及び署名押印のみ行い、その8日後にその日の日付を記載した→日付を記載した日に完成したとして有効
昭和6年7月10日大審院判決
全文を自書した後、翌日に前日の日付記載→有効
平成5年3月23日東京高裁判決
実際に作成された日より2年近く遡った日付記載→不実の日付の記載のある遺言書は日付の記載がないものとして無効
もちろん、個別の事案によって判断が異なることもありますが、日付だけを見た場合は数日程度であれば問題ないものの2年も遡ってしまうと無効になるという感じがします。

今回の最高裁判決

要旨としては以下のとおりです。
「民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し,退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」
凄く端的に申し上げると、確かに厳格な方式が求められているけど、やりすぎるとおかしな結果になってしまい、今回に相違程度であれば無効にするのは相当ではない、ということです。
他の裁判例にあるとおり2年も前だと無効になり、今回の判決だと1か月程度であれば無効にならないとのことであるため、どこまでであれば有効なのか無効なのかという問題は続くことになりますが、ケースバイケースで個々に判断されることになると思います。
そして、最初にも記載しましたが、初めから公正証書遺言で進めればこんな問題は起こらなかったわけですから、やはり公正証書遺言で進めるべきだと思います。