相続に関すること

養子縁組前のいとこの子の代襲相続の可否(最高裁判決)

本日(令和6年11月12日)、養子縁組と代襲相続に関する最高裁判決が出ましたので、まとめておきたいと思います。

 

 

1 前提知識

 

今回の最高裁判決のことを意図してまとめたわけではないのですが、令和6年7月の記事の知識が前提として必要となります。

→ 養子縁組と相続

 

ざっくりまとめると、Aには養子であるBがいたもののBの方がAより先に亡くなってしまったときに、Bの子であるCが生まれたタイミングによってCが代襲相続できるかどうかが変わるというものです。

民法887条2項に代襲相続に関する規定がありますが、そのただし書に「被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」という規定があります。

これだけだとなかなか分かりづらいのですが、上記の例だと、AとBが養子縁組をした時点でAとBに親子関係が生じ、そのあとにCが生まれた場合はCはAの直系卑属になるため代襲相続することができるのに対し、AとBが養子縁組をする前にCが生まれている場合(いわゆる「養子の連れ子」)は、その時点ではAとCには何の関係もありませんので、CはAの直系卑属には該当せず、Cは代襲相続することができません

 

養子縁組前に生まれた子か縁組後に生まれた子かによって結論が正反対になります。

 

また、類似するものとして、兄弟姉妹が相続人である場合において、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合は、その子(被相続人から見て甥や姪)が代襲相続することができますが、甥や姪が生まれたのが縁組の前か後かによって結論が正反対になります。

 

 

2 今回の事例

かなり分かりづらいため、日経新聞の図を引用します。

 

 

(引用元 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0634Q0W4A101C2000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1731396451 2024年11月12日 16:09)

 

上記の図の「男性(19年死亡)」と記載されている方が今回の被相続人になります。

「原告の母親」と書かれた方(以下「B」とします。)と被相続人はそれぞれの母親が姉妹であるためいとこの関係になり、本来は被相続人が亡くなったとしてもBが相続人になることはあり得ませんが、被相続人の母親(以下「A」とします。)とBが養子縁組をしたことによりAとBは親子になり、被相続人とBは兄弟姉妹の関係になるため、被相続人が亡くなったときに被相続人の子も親も亡くなっていると妹であるBが相続人となるはずでした。

 

そこで問題なくBが相続できていれば良かったのですが、この事件ではBが被相続人より先に亡くなっているため、AとBが養子縁組をする前に生まれたBの子(被相続人の甥や姪)である上記図の原告(以下「Cら」とします。)が代襲相続できるかどうかを検討しなければなりません。

そして、Cらが生まれたのは、AとBが養子縁組をする前に生まれた子であるため「代襲相続をすることができない」、というのが当初の結論でした(地裁もそのような判決でした)。

 

しかし、2審では、被相続人とBは当初はいとこの関係であり、被相続人とCらとの間もまったくの他人という訳ではなく被相続人の祖父母(Cらからすれば曾祖父母)まで遡れば血のつながりがある(傍系血族関係にある)ため、一転してCらが相続できるという判決をしました。

 

ということで、今回の最高裁判決は、「本来であれば養子縁組前に生まれた甥や姪であれば代襲相続できないが、元から傍系血族関係にあれば養子縁組前に生まれた甥や姪であっても代襲相続できるかどうか」ということに対しての結論となります。

 

3 最高裁判決

 

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)

 

今回の最高裁判決の重要部分は下記のとおりです。

 

「民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。したがって、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないと解するのが相当である。」

 

つまり、祖父母まで遡れば血族関係はあるものの、共通の親(今回の事例だとA)との間で直系血族関係がない養子縁組前の子であるCらについては代襲相続できないということになります。

 

業務として相続の手続を行っていると、親の兄弟姉妹の養子になっているということはかなり頻繁に見かけるものであり、決して特殊な事例ではありません。とすると、同じような事例は数多く存在するかと思いますので、この最高裁判決はかなり重要なものであると思われます。

もっとも、この最高裁判決のように、養子縁組前の子については基本的に相続できないということを前提に進めていることが多いかと思いますので、大問題が生じるということは少ないと思います。

 

以上、本日の最高裁判決についてでした。