自動車の相続手続(不動産との比較)
当事務所がご依頼いただく相続手続は圧倒的に不動産や預貯金に関するものが多く、それ以外だと株式等の有価証券がある程度です。
ただ、多くはないものの相続による自動車の名義変更も行っておりますので、今回は不動産の名義変更(相続登記)と比較しながらこの点をまとめたいと思います。
なお、自動車の相続手続ができるのは司法書士ではなく行政書士となりますのでご注意ください(当事務所は司法書士及び行政書士の事務所ですので不動産も自動車も手続可能です。)。
1 管轄の違い
不動産の相続登記は、お住まいの地域を管轄する法務局で手続きを行います。一方、自動車の名義変更は、運輸支局(軽自動車の場合は軽自動車検査協会)が窓口になります。
私どもの事務所がある長久手市だと、不動産については名古屋法務局名東出張所、普通自動車の場合は愛知運輸局、軽自動車の場合は軽自動車検査協会愛知主幹事務所になります。
2 手続の期限と義務について
(1)不動産
令和6年4月1日から、不動産に関する相続登記が義務化されました。
期限:相続を知った日から3年以内
罰則:正当な理由なく放置すると10万円以下の過料 詳細についてはこちらの記事をご覧ください。ただし、本日時点では法律が施行されてから3年が経過していないため、実際に過料を科された方は存在しません。 → 相続登記義務化の事務の取り扱いについて
(2)自動車
期限:所有者が変わったら15日以内
罰則:50万円以下の罰金
不動産だと3年の猶予と過料が10万円以下なのに、自動車の場合は期限が短いうえにかなり重い刑に処せられる可能性があります。
ただし、現実的に自動車の所有者が亡くなってから15日以内に運輸支局で手続を行うということは難しく、実際には罰則が適用されることはほとんど無いと思われます。私どもが手続を進めさせていただいた際もすべて15日は経過しておりますが、罰金を科された方はいらっしゃいません。
また、不動産の名義が亡くなった方のままでも自動車が使用できない訳ではありませんので、次の車検の時に変更されるという方もいらっしゃいます。
3 必要書類
どちらも相続手続であることには変わりませんので、多くの書類が共通しています。
(1)不動産と自動車の両方に共通して必要な書類
①亡くなった方の死亡が記載された戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)
②相続人全員の戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)
③遺産分割協議書(話し合いで決めた場合)
④相続人全員の印鑑証明書
(2)不動産だけに必要な書類
①被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(または法定相続情報一覧図)
②相続人全員の住民票(または法定相続情報一覧図)
③固定資産評価証明書
これ以外にも、被相続人の住所が繋がらない場合は権利書や上申書などが必要になることがあります。
(3)自動車だけに必要な書類
①車検証(自動車検査証)
②車庫証明書(管轄が変わる場合)
上記をご覧いただくと「または法定相続情報一覧図」という記載が多いかと思います。通常、私どもではご依頼いただいた場合は必ず作成しますが、この法定相続情報一覧図を作成するために戸籍謄本などが必要になりますので、私どもですべて取得いたします。
4 費用について
(1)不動産の相続登記
大きく分けて、私どもの報酬と登録免許税がかかります。私どもの報酬は戸籍等の調査に関する報酬も含めて9万円~となっており、登録免許税は固定資産評価額の0.4%となります。高価な不動産の場合、登録免許税が100万円以上かかるケースもあります。
(2)自動車の名義変更 こちらも大きく分けて、私どもの報酬と移転登録手数料になります。私どもの報酬は他の手続とまとめてご依頼いただく場合は3万円~となりますが、車庫証明や封印が必要な場合は別途費用がかかります。一方、手数料は不動産と比べると極めて安く、名義変更だけであれば500円程度であり、ナンバープレートの交換があるようであれば希望ナンバーであっても数千円程度で済みます。
5 相続人が複数いる場合
(1)不動産は共有名義もできますがお勧めしません
不動産は、相続人全員での共有登記が可能です。例えば、兄弟3人で「3分の1ずつ」という形で登記できます。ただし、共有名義にすると、後で売却するときに全員の協力が得られないと何もできなくなるという可能性がありますので、できれば話し合いで誰か1人の名義にされることをお勧めします。
(2)自動車は単独名義
自動車の場合、実務上は1人の名義にするのが原則です。複数名義での登録は管理が難しいため、遺産分割協議で「誰が車を相続するか」を決めてから手続きするのが一般的です。
6 価値が低い場合
(1)100万円以下の土地
あくまで時限的な租税特別措置法による例外規定ですが、現在は評価額が100万円以下の土地については、相続登記の登録免許税が免除されています。
土地だけですので建物には適用されませんが、土地の価値が仮に200万円でも被相続人が2分の1の持分しか持っていない場合には特例の適用があります。
(2)100万円以下の自動車
査定額が100万円以下の場合、正式な遺産分割協議書の代わりに「遺産分割協議成立申立書」という簡単な書類で手続きできます。ただし、相続人全員の実印と印鑑証明書は必要ですし、私どもにご依頼いただく場合は不動産の登記手続もご依頼いただくことがほとんどですので、実際には遺産分割協議書を作成したうえで自動車についても記載しています。
7 まとめ
不動産も自動車も、法律上は名義変更をする期限が定められております。また、手続をしない間に相続人の方が亡くなってしまった場合は、さらにその方の相続人も含めて協議をしなければならなくなるなど、時間が経てば経つほど大変になってきます。
相続が発生するということは、大切な方がお亡くなりになったということですので、心身ともに疲れ果てていると思いますが、少し落ち着きましたら名義変更のことをお考えいただければと思います。