はなみずき司法書士事務所
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2013年3月

3月 25 2013

過払い返還,密約で法律事務所などが勝手に減額

1364265544639昨日,朝日新聞の社会面にこんな記事が載りました。

記事(ネットだと一部しか見られません。)

 

 

平成25年3月24日朝日新聞社会面の一部を引用いたします。

以下,引用部分

朝日新聞は、全国展開する消費者金融業者の内部資料を入手した。それによると、協定は「包括和解」などと呼ばれ、相手先には、過払い金の返還請求を主に扱う大都市圏の弁護士や司法書士の法律事務所などの名前が20ほど並んでいる。
法律事務所などは多数の債務者から相談を受けるが、返済した合計額から正しい金利で計算した借金を引いた結果、(1)まだ借金が残る人(2)借金は完済し、業者から過払い金を取り戻せる人――に二分される。

協定は、(1)には借金の金利免除や分割での返済を認める一方、(2)には本来の返還額の9~5割をカットし、(1)(2)についてこの業者と一括で和解する。法律事務所などに今後依頼する債務者にも適用される。

和解は、それぞれの債務者の事情や要望に応じて個別に判断するのが本来のあり方だ。協定により、法律事務所は1件あたりの手間が減り、短期間に大量の依頼を処理できるため手数料を稼げる。業者も返還の支出を減らせ、双方にメリットがある。だが、(2)の返還請求ができる人には不利益しかなく、協定を知らないまま返還額を減らされているのが実態だ。

この業者は取材に「和解は個別に行っている。ご指摘のような協定はない」と回答。資料に名前のあった法律事務所などのうち十数カ所にも取材を申し込んだが、いずれも「お答えすることはない」などと拒否した。

各業者に取材したところ、複数の大手業者は、法律事務所との交渉に際し「減額をお願いする中で、具体的な割合や数字を『目安』として示すことはある」と回答。しかし「提案は和解内容を拘束するものでなく、交渉は個別にしている」「和解交渉は個別の事情、意向に応じて行う」として、協定の存在を否定している。

引用終わり

 

 

すごく簡単に記事の内容を引用すると,一部の消費者金融と一部の法律事務所,司法書士事務所が密約(包括和解協定・包括的和解契約)を結んでいたとのことです。
この包括和解協定(包括的和解契約)とは,

法律事務所としては借り入れが残る方の分割弁済で有利な条件で和解できる。また過払い金についても一定の金額を早期に返還してもらえ,事務量が大幅に削減できる。

消費者金融としては,過払金をかなり減額した割合で和解してもらえる。

という双方にメリットがある内容となっております。ただ,一番肝心な依頼者の目線が抜けており,減額してでも良いからどうしても早期に返還してほしいという方であれば別ですが,時間がかかってもいいから多くの過払い金を返還してもらいたいという方にとっては裏切り以外の何物でもありません。 

 

 

 

 

昨年12月頃,当事務所に朝日新聞の記者さんから電話があり,当事務所のブログ記事をご覧になり,取材をしたいとのことで,わざわざ東京から当事務所まで取材に来られました。つまり,上記の記事に関する取材先の一部は当事務所です。当事務所としても知りうる限りの情報を提供いたしました。 

 

まだ記事になっていない段階だったので,同業者にも黙っていましたしブログやツイッターにも書いておりませんでしたが,昨日記事になったことで各方面に聞いてみたところ,実際,上記のような密約をもちかけられることはあったものの,誰一人として密約を結んだ方はおらず,むしろ,そんな密約を本当に結んでしまった事務所が存在したことに驚いていました。 

 

また,取材を受けた際に,密約を結んだと思われる事務所の一覧表を見ましたが,テレビに出ているような大手事務所もあり,衝撃を受けました。 

 

私は決して大手事務所だからダメだとか良いだとかは申し上げませんが,少なくともその事務所またはその弁護士や司法書士がどのようなスタンスで業務を進めているかをちゃんと聞いてからご依頼された方が良いかと思います。

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3月 01 2013

時効消滅した過払金を貸金債務と相殺できるか(最高裁判決)

時効消滅した過払金と借入債務との相殺についての最高裁判決が出ました。

ただ,これを簡単に解説するのが難しく専門用語が出てくるため興味が無い方はつまらないと思います。ですので,興味の無い方は飛ばしてください・・・。 

 

 

ということで,いくつか事前知識が必要となります。 

 

 

AとBが互いに相手にお金を貸している場合,「現実的に双方が双方に返済するのではなく,対当額で貸金を消滅しましょう」というのが相殺ですが,相殺するためには基本的に双方の貸金について支払日が来ていなければなりません(これを「相殺適状」と言います)。
実際には,相殺適状にあるためには,「同種の債権であること」など,他の条件もあるのですが,この判例では他の条件は問題ないのでこれをもって相殺適状とします。

 

 

例えば,AがBに100万円を貸しており,BがAに30万円を貸している場合,AもしくはBが相殺すると,30万円部分について互いに消滅し,Bは残り70万円をAに返済すれば良いこととなります。

 

しかし,AがBに30万円を返済する期日が平成25年5月1日,BがAに100万円を返済するのが平成25年3月1日だった場合,平成25年3月1日にAからは相殺できますが,Bからはできません。なぜなら,相殺というのは一種の返済であり,Aは平成25年5月1日まで返済しなくても良い(これを「期限の利益」と言います。)ので,Aとしては強制的にBから相殺される言われはないからです。しかし,Aが進んで早めに返済するのは自由なので,平成25年3月1日時点において,Aから相殺することは可能です。この,自ら進んで早めに返済する,ということを専門用語で「期限の利益の放棄」と言います。また,契約により,返済に遅れた場合は,分割で返済していたものを一括で返済しなければならなくなるケースが多いです(これを「期限の利益の喪失」と言います。)。

 

さらに,民法580条に「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。」と規定されています。

 

例えば,上記の例でAがBへ返済する期日が平成15年2月1日,BがAへ返済する期日が平成25年4月1日だったとします。
通常,債権は10年経過すると時効により消滅してしまうので,AがBへ返済する義務は平成25年2月1日に消滅してしまっています。とすると,AはBに貸している100万円を請求できるかというとそうではなくて,民法580条により,Bは時効で消滅したはずの30万円の債権を使って相殺し,残り70万円のみAに支払えば良いということになります。

 

 

 

以上が前提知識です。

 

 

 

そして,やっと最高裁判例を説明すると,事情は下記の通りです(説明しやすくするためにちょっと簡略化しています)。 

 

 

Aさんは,B業者と平成8年から9年にかけて取引をしており,この取引により約20万円の過払い金が発生していた。

平成14年1月,AさんはB業者と取引を再開し,平成22年当時まで取引を継続していた。

平成22年7月に,Aさんは返済を延滞してしまい,一括で返済しなければならなくなった(期限の利益を喪失した)。

平成22年8月,Aさんは,B業者に対し,①で発生した過払金と約20万円について相殺し,約20万円を差し引いた残りを一括で返済した。

B業者は過払金は時効により消滅しているから,約20万円についても払えと主張している。 

 

というものです。 

 

 

 

これについて最高裁は,過払金を使って相殺できないと判示しました。 

 

 

最高裁サイト
判決全文(PDF) 

 

 

 

その理由は,相殺の条件として法律の規定では「双方の債務が弁済期にあるとき」となっている以上,単に自ら進んで返済ができるような状況にあったというだけでは足りず,期限の利益を放棄したり喪失したりして,現実的に弁済期が到来していなければ相殺適状に当たらないから,としています。 

 

つまり,期限の利益を喪失した平成22年7月の時点ですでに過払金は時効により消滅してしまっており,過払金と取引再開後の借金は相殺適状になっていないから,Aさんの相殺は認められない,ということとなります。 

 

なお,あくまで相殺適状時に過払金が時効になっているかどうかが問題であり,相殺の意思表示をした時点ではありません。 

 

ですので,

平成15年2月 過払金発生
平成20年3月 新たな借金発生
平成25年1月 新たな借金について延滞し,期限の利益喪失
平成25年3月 相殺の意思表示 

 

という場合,過払金が発生したのが平成15年2月ですので,平成25年2月に過払金は時効により消滅していますが,平成25年1月に期限の利益の喪失により相殺適状になっていますので,平成25年3月の時点でも相殺は可能ということになります。 

 

実際,かなり昔に取引をして解約をしたのち,同じ業者と再度契約したものの返済が難しくなり債務整理をされるという方はかなり多くいらっしゃいます。
当初の契約を解約しておらず,期間も離れていないなど,一連取引として検討できるのであればまったく問題ないのですが,別取引と認定されるような事案だと相殺の可否はかなり重要です。
また,省略していますが,判例の事案のように同じ会社ではなく合併等により相殺適状が問題になるケースもあります。
有名どころだと,アコムとキャッシュワンプロミスとアットローンなんかがまさにそうです。 

 

 

 

正直なところ,自分で書いておきながら,この解説がわかりやすいとは思えないのですが,上記のような事案に該当する方は,少しでも早めに手続きをされた方が良いかと思います。

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