貸金業者から借り入れについて長期間返済をしていないと,いずれ訴訟を提起されてしまいます。返済していない以上,勝てる見込みは低いので判決まで行ってしまった場合には敗訴する可能性がかなり高いと思います。
しかし,転居したにも関わらず業者に転居先住所を教えていなかった場合など,業者が訴訟を提起するのが大変な事情がある場合には,訴訟を提起されることなくそのまま時間が経過することがあります。
そして,そのまま最終の返済予定日から5年が経過すると時効となり,借金は消えてしまいます。これを消滅時効といいます(民法167条,商法522条)。
時効の中断
業者側としては,5年で借金が消えてしまうため5年が経過する前に回収しなければなりません。しかし,現実問題として回収できないケースも多々あると思います。
では,ほとんどの借金が5年経過で消滅してしまうかと言うとそうではなく,時効の中断がされた場合には,その中断のときから5年がリスタートすることになります。
中断の中でも一番使われるのが「債務承認」です(民法147条)。
具体的に言うと,「返済」です。
つまり,債務承認というのは,借金をしている人が業者に対して借金を負っていることを認める行為ですが,借金の返済をするということはその前提として借金があることを認めていることに他なりません。したがって,毎月返済をするたびに,「債務承認をしている」=「時効は中断している」ということになります。
時効の援用
上記は,実は少し正確ではない部分があります。
「最終の返済予定日から5年が経過すると借金が消える」と書いてありますが,もう少し正確に言うと,「5年経過」に加えて「援用」という行為が必要です(民法145条)。
簡単に言えば,「消滅時効が完成したので,借金がゼロになる権利を使います!」と相手に通知しなければならないということです。
なので,5年が経過しただけでは借金は消えておらず「借金を消せる権利を持っている状態」という認識で良いかと思います。
時効完成後の返済
ということで,5年経過すると借金を消せる権利を持っている状態になるわけですが,この時点で援用をせずに返済をしてしまった場合はどうなるのでしょうか。
この点,昭和41年に最高裁判所が,「例え消滅時効が完成しているということを知らなかったとしても債務承認したのであれば,その後に時効の援用はできませんよ。」という判決を出しました。
→最高裁サイト
→判決全文(PDF)
ということで,時効が完成した後で返済したり,返済の約束をしてしまうと時効の援用ができなくなってしまいます。
貸金業者の巧みな返済要求
上記最高裁判例をある意味逆手にとって,時効の援用をさせないように業者が巧みに返済させることがあります。
すでに5年以上経過しており,すでに時効が完成しているとします。
しかし,一般の方の中には5年で消滅時効になるということを知らない方も多いと思います。その知らないことに乗じて,突然業者の担当者が自宅を訪ね,「本来であれば利息をもらうまでは会社に帰れないんだけど,とりあえず1000円だけでも払ってもらえれば今日は帰るから。」などと返済を要求したり,勤務先に電話をかけて「とりあえず1000円支払ってくれればもう会社へは電話しないから」などと返済を要求することがあります。
確かに返済していないのは事実ですし,その状況を逃れたい一心で,とりあえず1000円支払うだけで解決するなら,ということで支払ってしまいますよね。そうすると形式上は,時効完成後に返済(債務承認)しているので上記最高裁判決のとおり時効の援用ができないことになります。
それでも消滅時効の援用ができる場合
上記最高裁判決の事例は,時効完成後に債務承認したということは,もう消滅時効の援用をする気が無いんだな,という貸主の信頼を保護するところにあります。
しかし,上記例の貸金業者は,時効の完成を知っていながら時効の援用を防ぐため,ある意味騙し討ち的な返済をさせています。とすると,このような貸金業者を保護する必要は無いと考えることもできます。
この点,明確な最高裁判決はありませんが,一部の裁判所においては,例え時効完成後に返済していても消滅時効の援用を認める判決も出ています。もっとも,少なくとも形式上は上記最高裁判決の通り消滅時効が援用できない状況にありますので,裁判所によっては時効の援用はできないと判断されるケースもあると思います。
正直なところ,ケースバイケースであるため,一律に援用できる,できないの判断はできませんが,このような状況になる前に,時効の援用をしておけば,問題になることはありません。
もし,長期間返済をされていない場合は,消滅時効の援用ができる可能性がありますので,早めに弁護士や司法書士にご相談いただければと思います。