はなみずき司法書士事務所
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2016年5月

5月 02 2016

破産手続開始決定と生命保険金

かなり久しぶりの記事となってしまいました。

前回の記事を書いて以降も過払い訴訟や任意整理,破産手続等は進めているのですが,特にトラブルなく解決していたため記事になるようなこともなく空いてしまいました・・・
 
 

さて,先日破産に関する最高裁判決が出ておりましたので紹介いたします。
 

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まず,大前提として,破産手続開始決定前と決定後の財産から説明します。 
 

<前提情報>

 

破産をしてしまうと,一部の例外(生活必需品,現金99万円など。「自由財産」といいます。)を除き,管財人によって破産者の財産は換価(現金化)され,債権者に分配されることになります。この「破産者の財産」の基準時が開始決定であり,その開始決定後に得た財産(「新得財産」といいます。)は債権者に分配されることはありません。ですので,極端な話,破産開始決定後に買った宝くじが当たっても当選金を債権者に取られることはありません。現実的に,宝くじの当選は極端だとしても,相続で取得するなんていうことは十分考えられることかと思います。
 

また,開始決定時には現実化していなくても将来の請求権も換価の対象となります。たとえば,将来もらえる予定の退職金が一番よくある例だと思います。ただし,会社の状況により退職金は必ずもらえるとは限らないため,名古屋地裁管内では,その時点の退職金のうち1/8(12.5%)についてのみ財産として計上する取扱いになっています。
 

ということで,この破産手続開始決定はかなり重要なターニングポイントということになり,これを前提に判例の事案について記載いたします。 
 

<事案の概要>

 

・甲と乙さんの間には,子ども丙さんがいます。

平成16年に丙さんは両親の甲乙さんを受取人として生命共済契約を締結しました。また,平成23年にも甲さんを受取人として生命保険契約を締結しました。

平成24年3月に,甲乙さんは破産手続開始決定を受けました。

・その翌月の平成24年4月に丙さんが亡くなり,甲乙さんは同年5月に合計2400万円の保険金を受け取りました。
 

という状況の下で,この保険金はどうなるか,という問題です。
 

甲乙さんが破産手続開始決定を受けたのが平成24年3月であり,平成24年4月に丙さんが亡くなって保険金を受け取ったのは5月なわけですから,破産手続開始決定後に得た新得財産であって換価されるものではないと考えることができそうです。しかし,退職金のような将来の請求権も換価の対象になっており,保険契約を締結した時点で(抽象的とはいえど)将来の請求権が発生しているのだから換価されると考えることもできそうです。この点,裁判所においても異なる結論が出ており,今回の最高裁判決で統一した見解が確定することになります。 
 

<最高裁の判断>

 

最高裁サイト

判決全文(PDF)
 

大事なところを引用します。

「この請求権は, 被保険者の死亡前であっても,上記死亡保険金受取人において処分したり,その一 般債権者において差押えをしたりすることが可能であると解され,一定の財産的価値を有することは否定できないものである。したがって,破産手続開始前に成立し た第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権は,破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じ た原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして,上記死亡 保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である。」
 

したがって,生命保険金はすべて管財に取られてしまうという結論になります。
 
 

とすると,少し腑に落ちない点が出てきます。

例えば,平成24年3月甲乙破産→平成25年3月に破産手続廃止&免責許可→平成25年4月に丙さん死亡だったら,そもそも破産手続が終わっているわけですから保険金は取られないと思うんですよね。そうすると,破産手続が早く終われば保険金は取られないけど,破産手続が長引けば丙さん死亡による保険金は取られることになり,「破産手続の長短」という破産者の力の及ばないところで換価されるか否かが変わってきてしまいます。破産手続開始決定時で線引きをした基準はどこへ行ってしまったのでしょうか。
 

なので,私個人としては,破産法34条2項に言う「破産手続開始前に生じた原因」というのは,保険契約ではなく保険給付の原因(保険事故)が生じたときで区別するのが良いと思います。つまり,甲乙さんの破産手続開始前に丙さんが亡くなっている(保険給付原因)のであれば換価され(管財人に取られ),開始後に亡くなったのであれば換価されない(破産者の新得財産)とした方が明確ですし,不公平感も無いと思います。
 

とはいえ,最高裁が上記の通り判決しており,問答無用で全部取られてしまいますので,お間違えの無いようお願いします<(_ _)>

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