裁判官も全国に支店(支部等)を有する会社(国)に雇用されたサラリーマンですので,当然転勤(異動)というものがあります。

今回の記事とは直接関係ありませんが,裁判官の異動履歴を載せているサイトもあったりします。
→ e-hoki
異動までの期間は当然ケースバイケースだと思いますが,上記サイトによれば異動まで2~3年というのが多いようですね。
弁論の更新とは
裁判官が転勤となると,それまで審理していた裁判官が判決をしないままいなくなってしまいますので,それまで進めていた分が無駄になってしまうかというとそんなことはなく,「弁論の更新」(民事訴訟法249条2項)という手続をすることで,新たな裁判官が続けて審理することになります。
この弁論の更新とは具体的には,新たに着任した裁判官に対して,当事者が従前の審理の結果を述べることになります。とすると,「何年も審理を重ねた後に裁判官が転勤してしまうと従前の結果を述べるだけで日が暮れてしまうじゃん・・・」などと思ったこともありますが,実際には裁判官が「裁判官が変わりましたので弁論の更新をしますね。」,私「はい。」という2秒程度のやり取りで終わってしまいます。訴訟の進行に際して,訴状や準備書面といった書面を提出しておりますので,裁判官としても口頭で説明されるより書面を読んだ方が早いし確実ですもんね。
例外として,証人尋問については,「目が泳いでる」,「回答に戸惑う」,「表情がさえない」など,録音や記録からでは伝わらないものがありますので,裁判官が交代した場合(合議の場合は過半数の交代がある場合)で当事者が希望する場合は,必ず証人尋問をしなければならないことになっています(民事訴訟法249条3項)。
4月は移動の季節
異動のタイミングは一律ではありませんが,やはり4月の異動というのが多いと思います。先日も四日市で進めている裁判について裁判官が交代したので弁論の更新がありましたが,特に何もなく結審し判決となりました。まだ判決は出ていませんが,恐らくこちら側にとって良い結論が出るかと思います。
と,このような状況であれば別に裁判官が交代しても良いのですが,微妙な状況の場合には裁判官の異動が結論を左右することもあります。過払い事件だと,遅延損害金問題や17条書面改定後の悪意の受益者,一連か分断か,というような争点は裁判官によって結論が異なることがありますので,新たな裁判官がどのような考えの方なのかというのはかなり重要になってきます。
また,とある不法行為に基づく損害賠償請求で私が被告側に付いている事件について1審だけで3年くらい裁判が継続していたのですが,かなりこちらの主張に理解を示してもらえる裁判官だったのでそれほどストレスなく進めていたのものの,結審の少し前に裁判官が変わってから明らかに空気が変わったのを覚えています。結果としては,辛勝(当初からのこちらの主張は認められなかったものの別の理由で勝訴)したものの,4月に結審してから6月に判決が出るまでストレスが凄かったので,ゴールデンウィークがまったく楽しくありませんでした・・・。
異動話あれこれ
裁判官の異動については,いろいろな話があり,最近だと高浜原発再稼働差止仮処分事件があります。
→ ニュース記事
テレビ・新聞で大々的に報道されましたので皆さんご存知だと思いますが,関西電力の原発再稼働について福井地裁が再稼働を認めない仮処分決定を出しました。この事件の裁判長である樋口英明裁判官は,福井地裁から4/1付で名古屋家裁への異動が決まっていたにもかかわらず,この事件についてのみ職務代行の辞令を受けて,引き続き担当し,4/14に仮処分決定を出しているというなかなか特殊な事例だと思います。
まったく別件ですが,判決そのものの是非は皆さん個々がご判断されるとしても,樋口裁判官が書いた判決文の「コストの問題に関連して国富の流出 や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が 出るとしても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土とそ こに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すこと ができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」という言葉は名言だと思います。
→ 裁判所サイト
→ 判決全文(PDF)
また,平成20年4月17日に名古屋高裁で,自衛隊のイラク派兵が違憲とする判決が出ました。
→ 裁判所サイト
→ 判決全文(PDF)
この事件は,自衛隊のイラク派兵が違憲であるにもかかわらず派兵したことによって平和的に生存する権利を侵害されたとして,国会賠償請求を起こした事件です。
そして判決は,「イラク派兵によって自衛隊が行った活動の一部は憲法9条に反する活動を含んでいるものの,平和的生存権が侵害されたとまでは言えない」として,国が勝訴しました。つまり,結論としては国が勝訴しているのですが,判決理由としては憲法違反が認定されております。この場合,国は不服申立(控訴・上告)ができませんので,初めてイラク派兵を違憲とする判決が確定しました。
この時の裁判長である青山邦夫裁判官は,なんと判決の日にはすでに依願退官されており,判決自体も別の裁判官が代読するという結末でした。つまり,判決書を作成したときは裁判官だったんですが,判決の日にはもう裁判官では無かったんですね。
国に不利益な判決を書くと左遷されるなんていう話もありますが,その前に退官されるとは色んな考えもあったのでしょうね(ただ,この時に退官されなくても残り2か月で定年だったようです。)。
この青山裁判官は今後どうされるのだろうと思っていたのですが,思いがけず大学院でお会いし驚きました。
※青山裁判官は平成20年3月31日をもって退官し,平成20年4月1日付で名城大学法科大学院の教授に就任されました。そして,私も平成20年4月1日付で名城大学法科大学院に入学しました。ちなみに,大学院では上記違憲判決について,私が知る限りではお話されていないと思います。
ということで,今回は債務整理や過払いとはほとんど関係の無い裁判官の交代の話でした。